selection: すべての夢

死者と宴会

ともに仕事をしていた会社側のプロジェクトリーダーが突然亡くなり、死んだ彼と飲みにいくことになる。道すがら彼は、コンクリートの角材を線路沿いの鉄柱に持ち上げる作業など、生前にやりかけた仕事をしている。彼はなぜか終始にこやかだ。広い宴会場で、僕は母親の膝の間に身を沈めている。Hが家族とともに来ている。彼も、もうすぐ死ぬのだと言う。僕は死に意味がないことを説くために、世界は数であり、あらかじめ計算ができる数に時間はない、などと言っている。Hは、気休めはいいから、と笑う。Hの二人の娘に、近所だからこれからも仲良くしようと言う。鉄道の操車場を自転車で走る男がいて、いっしょに駆けまわるHの二匹の犬たちの黒毛はびっしょりと汗に濡れ、冷えたあばらを触ると激しく呼吸している。神保町にある彼の図書館から、布ザックいっぱいの廃棄本を回収する。琳派の豪華本やガロのカタログなどがある。図書館から隣の工務店にするりと入ってしまうが、工務店から図書館へは壁があって戻れない。大きいザックを自転車の籠に入れて運ぼうとするが、膨大な積荷を自転車で運ぶ力学を解説した本があり、そこには家一軒もある大きさの荷物を引く自転車が、神保町の交差点を巧みに曲がる動画が付属している。大きな荷物に張り付いた何人かの男が、倒れそうな方向と反対側に重心を傾け、バランスを保っている。

(2015年3月19日)

屋上が一階

谷通りに面した建物の一階から、螺旋階段を昇り、階ごとに色の違う店(黄色い泥を壁に塗った店、青い粉を詰めたタッパーを無数に積み上げた少年の店、白いブランクの店)を覗きながら最上階にたどり着くと、再び一階の表示がある。崖に沿って建つビルの最上階が、ちょうど高台の地上の高さだからだ。
山の一階から再び谷の一階に降りるために、建物の屋上へ戻ろうとするが、崖と屋上の隙間が広すぎて、谷底を見ながら跨ぐことができない。

(2015年3月16日)

棲みつく俳優

赤いちゃんちゃんこの室井滋が、炬燵でれんこんを食べている。部屋の主は別の女だが、室井は女の行動を完全に把握しているので、不在のあいだこっそり入り込んではくつろぐのが習慣になっている。部屋の主が外出する影が窓をよぎるのを、室井が見ている。鍵はどうしたのか、と尋ねると、部屋は撮影のセットだから、半分外に開いているから、とカメラ目線で室井が説明し始める。

(2015年3月7日)

水没バス

乗合バスを使って引っ越しをしている。右半分が荷物で、左半分を乗客がしめている。八階のベランダに出てみると、東京全景見渡す限り水に沈み、眼下の森は海藻のようにゆらめいている。この水のどこかに、バスと荷物が移動している。ベランダづたいにやってきた佐和子さんに、水苔ですべると危ないからと手をさしのべる。佐和子さんは笑いながら、ここはもう渚だから落ちることはないと言う。

(2015年3月6日)

屋根裏展示場

土曜日の短い授業を終え、小学校の階段を上がっていくと、上の階に行くほど階の面積は狭くなり、最上階は小さい屋根裏部屋になる。藤田という女性が、そこで展示の準備をしている。藤田さんは昔P3で会ったと言うが、まったく覚えがない。和紙の一片に好きな模様を描き人形に貼ってほしい。そうやって多くの人が作くっていく作品なのです、と言う。屋根裏部屋へは階段で来たはずなのに、降りる階段はなく、穴から階下に飛び降りるしかないようだ。紙辺に無数の十の文字を書き、人形のうなじに貼る。

(2015年2月26日)

ガラス回路

屑鉄広場が続く地区の片隅に古民家があり、増井さんが古いカンナや板金を切る道具などを集め、古い技術のカタログをつくろうとしている。Archaicさんが、ガラス管で作った流体素子の帽子を差し出し、被れと言う。これは何かと尋ねると、「何か」を補完する回路だと言う。僕は二階に取り付けたロボットアームで一階の半田ごてを操ろうとするが、どうしても精度が出ず、熱収縮チューブの入った缶をまるごと焦がしてしまう。

(2015年2月22日)

魂脱落

川べりの学校で、小学生の根岸兄弟が鉄棒をしている。蹴上がりができるか、と聞かれ「できたとしても体中痛くなるからやらないよ」と答えると、根岸弟は小学生の身体でするりと蹴上がり、そのまま前に回る拍子に肛門から魂を落としてしまう。根岸兄がそれを拾い、売店のおばさんになんとかしてもらおうと言って二人で駆けて行った。

川岸の断崖に、緑色の雲母でできた足場が飛び飛びに突き刺さっていて、そのうちのひとつがたわみきれずに折れている。抜けた足場をひとつ飛び越えるときだけ、対岸の学校が一瞬目に入る。

(2015年2月19日)

カルデラに津波

カルデラの底を歩いていると、小学生の長谷川誠君が笑いながら近づいてきて「津波が来るのにまだここにいたの」と揶揄するように言う。僕は、そんなことは知っていたとばかり悠然と岩場を登り始める。馬の背まで登ぼりつめたところで振り返ると、火口壁の低い縁を乗り超えた津波がみるみるカルデラの平地を湖に変えていくのが見える。近づいてきた調査員がアンケート用紙を差し出し、Q.なぜ津波が来るのを知りましたか、A1.友人に聞いた、A2.ラジオで聞いた、などと読み上げる。いや、前から知っていたから1ではない。念のためこのあたりで一番高いところまで登ると、小屋の男がスコップで地面を削りながら、この土地は砂糖の干菓子だから水には弱いと言う。

(2015年2月11日)

CG学会の宴会

竹内君が持ってきたその作品は直径20cmほどの魚眼レンズで、覗き込むと中に黄色い草原があり、黒い老学者がくるくる回りながらそこを渡って行く。作品にはカタカナのエキゾチックな名前がついていたが、思い出せない。
温泉宿で行われているCG学会の宴会はところどころ強いライトがあたっていて、人間が干物のように乾いてしまう。みな口ぐちにこんな照明の設定はやめるべきだと言っている。しかし光が弱いと魚眼レンズの暗闇に沈んでしまうのではないか、と反論する男もいる。

(2014年10月24日)

ニュー狭山湖

赤羽線のガード下をコンクリートで固めて、防護服の男たちが白い塗装を猛烈に噴霧している。地下に抜ける鉄の蓋は、塗装が厚くなれば開かなくなってしまうだろう。この穴から地下の人たちに食事を投げ込まなくてはならない。貸本屋の女主人に、ビニールコートの背表紙に鉛筆の筆跡が裏移りしている、などとやかく言われ憤慨する。これを下敷きにした覚えはない。そう思いつつ、灯りの反射で照らし出した文字跡は、確かに自分が地下に宛てた手紙の一部だ。

赤羽駅のひとつ手前は山岳鉄道で、急な勾配を登るとニュー狭山湖が見える。万里の長城のような道の欄干から西日に光る湖面を眺めていると、勇樹に中台じいちゃんが死んだと伝えられる。だいぶ前から覚悟はしていたが、不意をつかれて涙が込み上げる。しかし、中台じいちゃんは30年前に死んだのではなかったか。

(2014年10月18日)

ジンジャーと樹の思い出

管理人のじいさんの名前が思い出せないので、とりあえずジンジャーと呼ぶと振り向いた。彼と話しながら、中庭にあった巨木のことを懐かしく思い出した。白いコンクリートの擁壁に登って巨木を見たことがある、と僕が言うと、切り倒してしまった巨木を中庭の見取り図に丁寧に書き加えれば、木が再生するかもしれない、と彼が言う。「樹皮も丁寧に描く必要があるだろう」そう言って、ジンジャーは鉛筆を丁寧に削ってくれた。

(2014年10月11日その3)

被ったフィルム

旅先の売店で、デジタルカメラの蓋をあけてしまう。あわてて閉じたが、フィルムを巻き戻す前に蓋を開けた自分が信じられない。遠くのベンチに座っているSamに、現像に出しちゃまずい写真を撮っていないか聞くために近づくと、Samの顔がどんどん別人になるのは被写界深度が浅いせいだ。どっちにしても被ったフィルムでしょ、と別人のSamが言う。

(2014年10月11日その2)

打楽器の撥

校庭のトラックをぼんやり白線沿いに歩いているうちに、頭に綿毛のついた打楽器のバチを拾った。いつのまにか校庭でやられていた大会は終わり、撤収が始まっている。どこかにマリンバやティンパニのある部屋があった。そこにバチを返さなくては。しかし軒を並べた部屋はどこも体育会系で、音楽部が見当たらない。NHKの取材班が、大会の時間を午後と勘違いして今頃やって来る。大会はとっくに終わったと告げると、内輪もめが始まる。

(2014年10月11日その1)

ツバメの足

Sの家にいる。Sが飼っている極彩色のツバメがなついて、僕の人差し指と中指の甲に両足をしっかりからませている。灯りを点けるのを忘れたまま、いつのまにか暗くなってしまった部屋に、Sの妹が帰ってくる。ツバメは自分の足を再生し、古い足を僕の指に残したまま飛び立った。抜け殻のように残った両足を削って飲むと体にいい、とSが言う。二階から老婆が降りてくる。

(2014年10月3日)

ベンヤミン監督のリアルタイム映画

塔のバルコニーにたっぷり湯を溜めて、往年のIT業界のリーダーたちが浸かっている。IT誌の編集長だった男が「バルコニーごと落ちるかもな」と言って冷やかにそれを見ている。不自然に傾斜のある会場に椅子を並べ、パーティは始まろうとしている。サンドウィッチを作っているロシアのおばさんにあれこれ注文すると、面倒臭そうに「おまかせ、とだけ言えばいいの」と言われる。会場に設置されたディスプレイでは、ヴァルター・ベンヤミンの作った映画が始まり、バルコニーの風呂やサンドウィッチ屋のおばさんとのやりとりが、映画のイントロとして映っている。これどうやって作ってるんだ、どういう仕組みだ、と周囲に聞きまくっている自分が映画の中にもいる。

(2014年10月1日)