rhizome: 洪水

カルデラに津波

カルデラの底を歩いていると、小学生の長谷川誠君が笑いながら近づいてきて「津波が来るのにまだここにいたの」と揶揄するように言う。僕は、そんなことは知っていたとばかり悠然と岩場を登り始める。馬の背まで登ぼりつめたところで振り返ると、火口壁の低い縁を乗り超えた津波がみるみるカルデラの平地を湖に変えていくのが見える。近づいてきた調査員がアンケート用紙を差し出し、Q.なぜ津波が来るのを知りましたか、A1.友人に聞いた、A2.ラジオで聞いた、などと読み上げる。いや、前から知っていたから1ではない。念のためこのあたりで一番高いところまで登ると、小屋の男がスコップで地面を削りながら、この土地は砂糖の干菓子だから水には弱いと言う。

(2015年2月11日)

水没避難民

ふだんは住民だけが行き来する八階の廊下が、見かけない人で溢れている。非常階段の踊り場から覗きこむと、地上は一面緑色の海に水没している。死んだ佐々木の奥さんが、見惚れるように水平線を見ている。

(2014年8月23日その1)

縄文式寺院

洪水にのまれた寺院の修復をしている。天井から吊るされた天体を、屋上のハンドルを回して動かし、日蝕を作っていると、従姉の娘たちである洋子と文子が遊びに来て、ここで縄文時代の生活をしたいと言い張る。現代の食器を使わないでメシを食うのは、一度ならいいけれどずっとは嫌だよ、と言うのを聞いているのかいないのか、この子たちは瓦礫から集めた仏像を燃やして土器を作りはじめた。

(2013年9月7日)