rhizome: 屋上

屋上が一階

谷通りに面した建物の一階から、螺旋階段を昇り、階ごとに色の違う店(黄色い泥を壁に塗った店、青い粉を詰めたタッパーを無数に積み上げた少年の店、白いブランクの店)を覗きながら最上階にたどり着くと、再び一階の表示がある。崖に沿って建つビルの最上階が、ちょうど高台の地上の高さだからだ。
山の一階から再び谷の一階に降りるために、建物の屋上へ戻ろうとするが、崖と屋上の隙間が広すぎて、谷底を見ながら跨ぐことができない。

(2015年3月16日)

カツオの身投げ

デパート屋上にある側溝を猛スピードで駆け廻っているカツオが、勢い余ってフェンスを乗り越えそうになる。網の上端で危うく堪えている魚を救出しようか迷っているうちに、カツオはしだいに外側へ傾き、駅前広場めがけて落下していく。

(2013年9月10日その2)

縄文式寺院

洪水にのまれた寺院の修復をしている。天井から吊るされた天体を、屋上のハンドルを回して動かし、日蝕を作っていると、従姉の娘たちである洋子と文子が遊びに来て、ここで縄文時代の生活をしたいと言い張る。現代の食器を使わないでメシを食うのは、一度ならいいけれどずっとは嫌だよ、と言うのを聞いているのかいないのか、この子たちは瓦礫から集めた仏像を燃やして土器を作りはじめた。

(2013年9月7日)

掌の建築

建築プランが書かれた紙を、西田さんはマンションの屋上まで運び、堆積したさまざまなものの中に埋めてしまおうとしている。そのプランとは、まず両の掌を宙にかざし、しだいに顔に近づけるとそれは見えにくくなり、しまいにすっぽり頭部を包囲すると掌ごと完全に見えなくなる、という建築作品。

(2011年7月20日)

イスラムの讃美歌

走りながらどんどん壊れていく自転車に乗って遠出をしている。ついに外れた前輪を前籠の中に投げ込んでしまったのに、まだなめらかに走ることができる。高円寺の巨大イスラム寺院に来たところで、アカペラの讃美歌とスーフィーの混合音楽が聴こえてくる。この建物の屋上に幽閉された女を連れ出し、寺院からの脱出を試みるが、女だけ軽々と壁面伝い斜めに駆け降り、寺院は女が蹴り抜けた壁の煉瓦から次々と崩れていく。

(2010年11月2日)

砂のゲレンデ

一面砂の斜面は、一度降り始めたら止まらないほど急峻なゲレンデで、先に降りてしまった相方がどこにいるのかもわからず、怖気づいて滑り出すことができない。しかも、スタートラインより前は広告ページになっていて、どのページまでが広告なのかは、見る人によって判断が異なる。また「しまぶくろの理論」と称する解説ページも挿入されていて、斜面を滑るときの意識の集中ゾーンがおでこのあたりにあることが示されている。ページをさかのぼって屋上には、白いコンクリートにローラーを転がして、亀裂に雑草を植えている男がいる。

(2008年7月28日)

バナナシュビドゥバ

十ある課題をクリアすれば、この巨大な建物群から抜け出せることはわかっている。八つ目までは(それがなんだったか思い出せないが)なんとか切り抜け、九つ目がいままさに解かれようとしている。それは、短い黒髪の女性を発見して救い出すという課題。肩に小さい刺青のある女性は、宗教上の理由からそれを外套で隠さないと絶対に動けないと主張する。やむなく僕は天井から縄で女性を吊り上げ、ドラム缶へ格納することに成功した。すると彼女は、次の課題の答えをまんまと教えてくれたのだった。建物の屋上伝いに、彼女の教えてくれた店にたどり着くと、暗い極彩色のペンキでぬり分けられた店内にウサギのウエイターが迎え入れてくれる。「バナナシュビドゥバ」という短調のテーマ曲が執拗に繰り返されている。この夢といっしょにこの歌を採譜せねばと、何度も頭の中で音符を書いたが、すぐに記憶が消えてしまう。

(2006年9月22日)