rhizome: 青

屋上が一階

谷通りに面した建物の一階から、螺旋階段を昇り、階ごとに色の違う店(黄色い泥を壁に塗った店、青い粉を詰めたタッパーを無数に積み上げた少年の店、白いブランクの店)を覗きながら最上階にたどり着くと、再び一階の表示がある。崖に沿って建つビルの最上階が、ちょうど高台の地上の高さだからだ。
山の一階から再び谷の一階に降りるために、建物の屋上へ戻ろうとするが、崖と屋上の隙間が広すぎて、谷底を見ながら跨ぐことができない。

(2015年3月16日)

坩堝コーヒー

ホテル最上階の部屋を予約したのだが、部屋の準備がまだできていないとフロントに言われる。仕方なく、コーヒーを飲んで待つことにする。ロビーには車体が青磁でできた自動車が停まっている。ところどころひびが入り、ひびに汚れが沈着し、車がかつて公道を走っていたことを思わせる。

僕は白いデミタスカップに錫(すず)を融かし、錫が固まらないように小さい火で底を炙りながら部屋の準備を待っている。

(2014年3月29日)

火山岩に埋もれた古本屋

坂道のたもとで、美大生がガラス板に山火事の絵を写生している。しかし山火事はどこにも見当たらない。見渡す限り青いガラス質の火山岩が、ただごろごろところがっているだけだ。
坂道を登りつめたところに、古本屋がある。人がやっとくぐり抜けるほどの木枠の出入り口が五つあり、そのうちのひとつに靴を脱ぎ、中に入った。黒く燻された古民家の本棚を一通り漁り、そろそろ出ようとするが靴がない。ここは入った口とは違う敷居だ。靴を脱いだ出入口がどこにあるのか、迷路のような内側からは見当もつかない。ガラス窓の外を見ると、美大生の描いた山火事がどんどん迫っている。

(2008年11月27日)

絣の車

青い外車に乗って年長の男がやってくるのをガソリンスタンドで待っている。どのガソリンにするのか、と店員に尋ねられ、僕は運転をしないのでよくわからないが、牛肉がレギュラーだとするとマトンのようなガソリンだと思う、と答える。
絣(かすり)の生地で車体が覆われた車に乗って、男がやってくる。彼の目当てが僕の従姉だということは、うすうす気づいている。しかし玄関を開けると、立っているのは見知らぬ女性で、初めて会うにしてはあまりに顔が近い。

(2008年4月15日)

青錆色の書物

僕とその女は、それぞれ自転車に乗って長い坂道を降りている。僕たちは、ある使命を帯びているために、こうやって急な坂道を猛スピードで下っているのだ。
坂道の終わりに、土をうずたかく積み上げた本屋がある。ここで扱う本はすべて青錆色の砂鉄で、注意深く掌の中央に集めていかないと、吹き飛ばされてしまう。「知識とはほんの一握りの青い磁性を帯びた砂粒にすぎない」と砂鉄製の本に書いてある。
われわれは何冊かの本を汗ばんだ掌にくっつけたまま、さらに自転車に乗って、広大な公園に到着する。地面から半ばあらわになった半径数十メートルの赤い陶板をコースにして、彼女の自転車は巡回軌道に入った。それが、彼女のみつけた使命なのだ。僕もまた、そのような色つきのコースを発見すべく公園を走り回っているのだが、なかなか見つからない。公園を監視する正装の男が見かねて、僕を青い陶板の在り処に連れていこうと手招きしている。

(1998年6月7日)