rhizome: 食器

縄文式寺院

洪水にのまれた寺院の修復をしている。天井から吊るされた天体を、屋上のハンドルを回して動かし、日蝕を作っていると、従姉の娘たちである洋子と文子が遊びに来て、ここで縄文時代の生活をしたいと言い張る。現代の食器を使わないでメシを食うのは、一度ならいいけれどずっとは嫌だよ、と言うのを聞いているのかいないのか、この子たちは瓦礫から集めた仏像を燃やして土器を作りはじめた。

(2013年9月7日)

ストリートチュードレン祭り

竹内郁雄氏一行を乗せたトラックの荷台に乗りそこねてしまったため、僕はひとり遅れてレストランにたどり着くと、彼らはすでにテーブルに直接拡げた食い物を手で掬い上げては頬張りはじめていた。ここは皿とテーブルが、まだ分節化していない。
外は海外のストリートチュードレンを日本に紹介する祭りの最中で、切り立った斜面に挟まれた道は、招待されたにしてはあまりに多すぎる家のない子供たちであふれている。足をぶらぶらさせながら土手に腰掛けている少年たちが、笑いながら手を振っている。

(2008年3月19日)

反転ポット

髪の短いその女が誰だかわからないまま、Fといっしょにやってきたのだからきっと古いつきあいなのだろうと思い、親しげに話している。
「髪切ったんだね」「あ、一年前よ」……やはり思い出せない。彼女は、ここらへんに小田原城跡のような店がないか、携帯電話のケースを買うのだ、と言う。

彼女たちに紅茶を入れようと、ガラスのティーポットに紅茶葉を入れ、お湯をそそぐ。少しお湯が足りなかったので、急いで少量の水を湧かし、そして卓上にあるティーポットを見ると、なんと口が下を向いて紅茶も葉も外にこぼれ出ている。透明だからこういう間違いをするのだろうか、と思いながら、上下をひっくりかえして葉を入れ直す。コンロのお湯に目をやり、ふたたびポットを見ると、またひっくりかえっている。Fがその一部始終を見ている。もしやと思い、逆立ちしたポットの底を押してみると、それはまるで飴のようにゆっくり変形し、テーブルにめり込みながら平らなガラスの円盤になり、そして完全に裏返ってしまった。Fはなぜか動揺せずにそれを見ている。僕は度肝をぬかれながら、不思議に気持ちよいポットの弾性を何度も手で確かめている。

(1998年1月17日)