rhizome: ロボット

ガラス回路

屑鉄広場が続く地区の片隅に古民家があり、増井さんが古いカンナや板金を切る道具などを集め、古い技術のカタログをつくろうとしている。Archaicさんが、ガラス管で作った流体素子の帽子を差し出し、被れと言う。これは何かと尋ねると、「何か」を補完する回路だと言う。僕は二階に取り付けたロボットアームで一階の半田ごてを操ろうとするが、どうしても精度が出ず、熱収縮チューブの入った缶をまるごと焦がしてしまう。

(2015年2月22日)

グソクムシの崩壊

駒込の草原邸で浅野君たちと仕出し弁当を食べていると、盛られた砂の上に置かれたダイオウグソクムシのロボットが砂ごと崩れはじめる。草原さんは「自然のままにしておけばいいのよ」と言いながら、片足で砂を床の隙間に押しやる。砂は、床の隙間から床下へとこぼれ落ちていく。あとで困るだろうと、僕は隙間を目張りするために床下に潜りこむと、そこは畳の敷かれた明るい広間で、砂時計のように砂の三角山が成長していた。

(2014年6月5日)

シュレーディンガーの猫

8階の部屋でインタビューを受けている。カメラは向かいの建物に三脚を立て、望遠でこの部屋を狙っている。僕は、窓際に立つインタビュアーのイタオに「人間は視覚的に未来を見るが、猫は未来を見るために手を動かす」と話している。
8階に猫はいない。真上の9階には猫がいる。それを一発で撮るためにカメラを外に設置したのだ、とイタオが言う。
僕は8階にあるロボットの下半身を、どうにかしないといけない。9階に上半身があることを、僕はカメラの映像を見て初めて知った。下半身が動き出す前になんとか始末をつけないと、このロボットは自分の手を探し出してしまう。

(2014年1月17日)

文京の水路

文京区に張り巡らされた水路を、草原真知子さんとボートで巡っている。お互いの家族の話などをしながら、いつのまにか水路の網目の深いところまで入り込んでしまった。これからボートを駅に返しにいけば、すでに始まっているクラス会に間に合わない。ボートを管理するロボットが、藍染の布を外皮として貼った顔をこちらに向けて、ボートはどこに乗り捨てても良いと言う。ただ、返却時には停泊するボートに真水を満たしてほしいとも言う。真水の水源を探すのは厄介だから、根雪を探してそれを抱きかかえて融かせばいいのよ、と真知子さんが言う。文京区の雪渓を探して水路をさまよううちに、川沿いのマンションの外壁を登る小学生たちに出会う。彼らは壁をいかに速く登りきるか競っていて、黄色や赤や緑の服をぱたぱたとはためかせながら次々とファインダーの上方にフレームアウトしていく。

(2013年6月2日)

悪い機械

散乱するマットに何度も飛び込むうちに、ふと落下寸前で飛行に転じる力の入れ方を習得した。ぐいぐいと高度を稼いで、体育館の天井までたどりつく。体育館の屋根裏に住み着いて仕事をするnishinoさんらしき男と机を並べ、僕は自作のラジオを聞いている。男が作ったアルミ製の節足動物型多関節ロボットを訪ねてきた小林龍生が目ざとくみつけ、なかば冗談でリンゴを与えると、多関節ロボットは頭部の触角で幾度か対象物を探索する動作をしたあと、いっきに体ごとリンゴ内部に侵入し、果実を液化して吸い尽くしてしまう。その邪悪な光景に興奮した小林は、ロボットの腹をぐいとつかみアルミ製の頭を壁に打ち付けると、火花が飛び散り燃え始めた。

(2012年7月8日)

多関節蛇列車

巨大な多関節蛇型列車が、竜のように形を変えながら高島平の発着場に降りてくるのを待ち受けようと気が急いている。北端の崖を走り降り、自転車を乗り捨て、線路脇に張られたピアノ線の縄梯子を注意深く踏み外さないように登りはじめる。

(2011年7月19日)

悪いマイクロロボット

閉鎖カプセルの中には、ゴキブリのような昆虫や、それを捕食する爬虫類などが入れられていて、「閉じた生態系モデル」にはなっているものの、殺伐としていて中を覗き込む気持にならない。会ったばかりなのに恋人のように人なつこい女が、僕がすでに恋人がいることを、会ったばかりなのに責めたて、その理不尽さと手元のカプセルにいらつきながら、このおぞましいカプセルを階段の下や下駄箱の上など、なるべく誰も気づかないところに隠さねばと思っているのだが、なかなか決断できない。
ふと自分の親指の付け根に、白くぽつぽつと芥子粒のようなできものが密集しているのを発見して寒気がする。ルーペで拡大すると、それぞれがメタルキャンのトランジスタ素子のように足を出し、それを皮膚に食い込ませている。この巧妙なマイクロロボットをひとつひとつピンセットで取り出したいのだが、しかし下手にいじると無数のロボットが拡散して体中に回ってしまうかもしれない。ここで焦ってはいけない、と自分に言い聞かせる。

(2003年1月16日)

ボルゴさんの子供

彼の子供には形がない。なまこのようでもあり、ウニの刺し身のようでもあり、ペニスのようでもある。口があって話ができる。時折、ペニスの先の穴のような口で噛みつく。その子供をソファの片隅に乗せて、広大な要塞から救出してきた。
ボスは、その子供を捕らえようとしている。子供は相手の顔にしがみつくと、まるで変形ロボットのような構造を有機的に変形し、相手の身動きを封じ込める。
トランクに隠していた子供が見つかってしまい、組織のボスの手に渡ってしまうが、しかし子供は今度は液体になって、地面に染み込んでいく。父親に「なにかあったら、呼んでください」と言い残す。

子供の父親はボルゴさんという名前で、正義の味方として活躍するボルゴさんの連続ドラマがはじまる。ボルゴさんがやってくると、彼の手には大きな手袋に変形した子供が嵌っていたりする。ボルゴさんは関口ひろしのように笑いながら登場し、今週は入院している悪人の点滴や人工呼吸機にしがみついて、彼らを滅ぼしてしまう話だ。
ボルゴさんの番組を見ていたら、いとこのYがやってきて「宿題はどうした」としつこく尋ねる。

(1996年9月2日)