rhizome: テレビ局

ポーンたちの現場

新井田さんが外国人に何かを訊ねられ、わからないので僕に「Where is pawn?」と訊く。いや、そこは日本語でいいんじゃないか。するとpawnと呼ばれている制服の男たちがやってくる。彼らはフジテレビの人だとばかり思っていた。名刺入れを覗くと、中には草の葉の屑など名刺の試作ばかりで、ともかく何かを手渡すとpawnは嬉しそうにしている。
体育館にPCやらディスプレイを並べ、イベントのさなかにコーディングしなくてはならない。PCと自分が離れているので長いマウスケーブルを使う。CRTディスプレイは舞台の近くにある。それぞれがあまりにばらばらで心もとないというと「サーバー上で開発する時代ですから」とpawnが生意気な口をきく。
体育館のバックヤードは、グニャグニャ波打つ木の床に青い仕切り壁でできている。倉庫やトイレの入り口に、大きな番号が振ってある。撮影隊が女子レポーターを撮っている。使いづらいがときどきこのグニャグニャは利用できるとカメラマンがいう。

(2016年9月29日)

打楽器の撥

校庭のトラックをぼんやり白線沿いに歩いているうちに、頭に綿毛のついた打楽器のバチを拾った。いつのまにか校庭でやられていた大会は終わり、撤収が始まっている。どこかにマリンバやティンパニのある部屋があった。そこにバチを返さなくては。しかし軒を並べた部屋はどこも体育会系で、音楽部が見当たらない。NHKの取材班が、大会の時間を午後と勘違いして今頃やって来る。大会はとっくに終わったと告げると、内輪もめが始まる。

(2014年10月11日その1)

シュレーディンガーの猫

8階の部屋でインタビューを受けている。カメラは向かいの建物に三脚を立て、望遠でこの部屋を狙っている。僕は、窓際に立つインタビュアーのイタオに「人間は視覚的に未来を見るが、猫は未来を見るために手を動かす」と話している。
8階に猫はいない。真上の9階には猫がいる。それを一発で撮るためにカメラを外に設置したのだ、とイタオが言う。
僕は8階にあるロボットの下半身を、どうにかしないといけない。9階に上半身があることを、僕はカメラの映像を見て初めて知った。下半身が動き出す前になんとか始末をつけないと、このロボットは自分の手を探し出してしまう。

(2014年1月17日)

火口を臨む家

ウィンクの片方の女の子の実家に、インタビュー番組の取材に来ている。
「こんな変わったところに建っている家があるなんて」
「みんなにそう言われます」
家は山岳地帯の急傾斜の中腹にある。家の出窓に彼女が座り、肩越しに外の景色をカメラでとらえようとしていると、山肌や空がみるみる白いものに包まれていく。山岳地帯特有の濃霧かと思うと、霧の晴れ間のはるか下方に小さい火口があって、そこからもくもくと煙が出ている。赤い炎も見える。
彼女の弟がキャッチボールをせがむので、部屋の窓からボールを投げると、彼はまるで平地のように斜面を走り回っている。
「あんなことをしていて、いつか火口に落ちやしませんか」
「大丈夫なんです」
この人たちは、こういう特別な環境で育って本当によかったなぁと思う。

(1996年8月5日)