rhizome: 和紙

屋根裏展示場

土曜日の短い授業を終え、小学校の階段を上がっていくと、上の階に行くほど階の面積は狭くなり、最上階は小さい屋根裏部屋になる。藤田という女性が、そこで展示の準備をしている。藤田さんは昔P3で会ったと言うが、まったく覚えがない。和紙の一片に好きな模様を描き人形に貼ってほしい。そうやって多くの人が作くっていく作品なのです、と言う。屋根裏部屋へは階段で来たはずなのに、降りる階段はなく、穴から階下に飛び降りるしかないようだ。紙辺に無数の十の文字を書き、人形のうなじに貼る。

(2015年2月26日)

藻類標本小屋

ぜひ見せたいものがある、と黒人の庭師に案内されたのは広い芝生の隅にある黒く塗られた小屋だった。持っていたノートを芝生に置き、上下に開くガラス窓を開けるのに手を貸すと、小屋の中にはさらにもうひとつ小屋がある。中の小屋から屋根を外すと、それは木の水槽だった。なみなみと張られた水はなぜか絶えず流れ、世界各地から集められた水藻が糸見本のようにたなびいている。集まってきた女子高校生たちが「わあ綺麗」と声をあげるが、暗く絡まり合う藻は美しいというより恐ろしい。
そろそろ講義が始まる時間なので、と言ってその場を離れるとノートがない。高校生のひとりが遺失物として届けたと言う。彼女に案内されて教務課に出向くと、薄い和紙をカットして作ったシールを受領証明としてノートに貼らなくてはならないと言う。安齋というアウトラインフォントの複雑な不要部分を剥がしながら、申し訳ないけれど授業が始まるからと、撚れた齋の字を無理やり手で押さえつけた。

(2013年8月23日)

猿おやじ

赤い手染めのシャツを格安で売るという怪しい男がいる。シャツは染めたばかりで、まだ水を含んでいる。僕は現金を持っていない。バッグから探し出した小切手を見せると、これは換金できないから判子もよこせと言う。バッグから特大の印鑑を探し出し、印の面に貼った和紙をはがすと自分の苗字ではない。そんな押し問答を暗い路地でやっていると、ここでそんなことをされちゃ商売にならねぇ、と神棚に乗った小型の猿のようなおやじにどやされる。しかしおっさん、なにも売ってないじゃないか。そんなことはねぇ、といきなり機械の軋むような声で唸り始め、猿おやじが浪曲師だったことがわかる。

(2010年9月26日その2)