selection: すべての夢

艶やかな両替

優先席に座っている老いた女が、両替をしてくれといって五千円札二枚差し出すので、僕は一万円札を渡そうとする。よく見ると五千円札は見たことのない外国の紙幣で、僕の一万円も表面が黒く焦げていて、これではどちらが悪者かわからないので等価交換にならない、立会人のもとで交換したほうが公平だと言って、駅舎を目指すが、認知症の女は脳細胞とともに年齢を欠落させているせいか、声も話題も20代の女で、艶やかにまとわりついてくる。

(2016年11月15日)

青虫恐竜

青山一帯が更地になっている。こどものくにの恐竜が何匹か、更地の縁に張り付いている。8階の店の窓から見ると恐竜は虫ほどの大きさで、青虫が葉を喰い拡げていくように見える。上空から見る津波は偽物だから、早く地面に降りて写真を撮ったほうがいい、と女店主に促される。

(2016年10月26日)

VR古書店主

江古田に向かう坂の途中で、近所のハヤカワさんから首長のガラスカプセルに入ったドリンクをもらう。道端に業界人を集めて、ガラスドリンクのパーティーをしている。少し参加したが、話がかみあわないので引き上げる。いつもの木の椅子に座って坂をいっきに石神井川まで滑り降り、川辺を歩くと古本屋がある。黒い小顔の店主は、本の集め方がおかしい。同じ本が何冊もある。ある年の月刊イラストレーションばかり数竿の本棚を占め、入りきらない分は床から積み上げてある。いちめんの色あせたオレンジ色の背表紙。店内の写真を撮っていいか店主に尋ねると、店主自身がポーズをとり、娘や孫まで呼んできてひとりづつ店番に座らせる。僕はスマホをヘッドマウントディスプレイに嵌めて撮っているので、VRの向こうにリアルな店番がいるのかどうかわからない。

(2016年10月17日)

吉見百穴ホテル

案内の女子高校生の後について吉見百穴のひとつの穴に入る。どの穴から入っても内部の大きな空間につながるはずだが、穴はむしろどんどん細くなり、四つん這いになった女子高生を追ってどんどん奥に入っていく。岸辺から川に迫り出したホテルのベッドメイキング後の枕元に、プラスチックパイプに入った鉛筆の芯が置いてある。固めのチョコレートでできているので食べられる。並びの部屋のRはきっと気づかないから、捨てちゃだめだと伝えなくては。

(2016年10月10日)

ポーンたちの現場

新井田さんが外国人に何かを訊ねられ、わからないので僕に「Where is pawn?」と訊く。いや、そこは日本語でいいんじゃないか。するとpawnと呼ばれている制服の男たちがやってくる。彼らはフジテレビの人だとばかり思っていた。名刺入れを覗くと、中には草の葉の屑など名刺の試作ばかりで、ともかく何かを手渡すとpawnは嬉しそうにしている。
体育館にPCやらディスプレイを並べ、イベントのさなかにコーディングしなくてはならない。PCと自分が離れているので長いマウスケーブルを使う。CRTディスプレイは舞台の近くにある。それぞれがあまりにばらばらで心もとないというと「サーバー上で開発する時代ですから」とpawnが生意気な口をきく。
体育館のバックヤードは、グニャグニャ波打つ木の床に青い仕切り壁でできている。倉庫やトイレの入り口に、大きな番号が振ってある。撮影隊が女子レポーターを撮っている。使いづらいがときどきこのグニャグニャは利用できるとカメラマンがいう。

(2016年9月29日)

不動産見学バス

大スクリーンのあるレストランで中村さん郁恵さんと食事をしていると、不意にスクリーンが観音開きになり、吸いこまれようとする郁恵さんの両足首を手で握れば、郁恵さんは浮いたままタイムトンネルの中を泳ぐそぶりで、ほぼマンガの光景になる。突如、音をたてて建物全体が移動しはじめ、バスの車窓と化したスクリーンはトンネルを抜け、建設工事中のマンションの敷地内にたどり着く。レストラン自体が売り出しマンションの販促ステルス宣伝であったとは気づかなかった。他の客たちが扉をくぐってモデルルームに向かうなか、われわれ3人はむき出しのコンクリートや鉄筋や配管など、そこいら中に潜むカンブリアンゲームのネタを撮影しはじめる。

(2016年8月22日)

五叉路

旅の帰路、集団からはぐれてしまい、幾本も放射する道の中心に立っている。ひとつの道には緑生す谷がある。ひとつの道は深い堀に沿って階段で降り階段で上がるが、どちらの階段も踏み込んだとたん段が動き始める。ひとつの道は白い綿のクッションを積み上げた山で、頂上を踏むと山が崩れ、バザーに出す女ものの下着が山裾に散乱する。ひとつの道にはNHKの7時のラジオニューススタジオがあり、アナウンサーのまわりを怒号が飛び交っているが、怒号だけマイクが拾わない回路が働いている。

(2016年8月3日)

花火とトンボ

七世さんが歯の治療のためにあの世から帰ってきていると、歯医者の草間先生から伝え聞く。実家にやってきた七世さんを、晩御飯を食べていかないか、泊まっていけばいい、と母が引きとめている。神戸の家の地下でやった小さい芝居の話など、積もる話は尽きない。窓越しに垣間見える花火を見て、親戚の男の子と七世さんがはしゃぎながら坂を登って花火大会に駆けていく。先に帰ってきた男の子が、あの人は変だ、花火が上がるとトンボの目をして空に舞いあがろうとする、と言う。

(2016年8月1日)

ニューラル計算尺

齊藤さんが人造コットンから紙を作る会社を作った。どろどろに溶けた綿の液体から、紙を引き上げる。いろいろな計算はこれでやっている、と見せてくれたのは旧式の汚れた計算尺で、ニューラルネットワーク制御のロボットハンドが高速に竹尺を操作している。これが正しい答えを導くいちばんいい方法なんです、と齊藤さんが自慢げに言い、僕は大きく首肯する。

(2016年7月24日)

重ね層遊具

阿武隈川を船で下っている。対岸の層模様は昨日の豪雨がつけた水位の痕跡。層が半透明でその向こうをRが舟の速度で走っている。
川下りの折り返し地点に、ドーナツ状の籠を重ねた遊具がある。円筒は上の層ほど速く回っている。層ごとに遠心力で張り付いた人がいる。写真をとると、上の層ほどぶれて透明に見える。

(2016年7月5日)

偶然のパンケース

坂本竜馬が洋館から撤収する現場を手伝っている。あまりに荷物が多い。うねみくんが小学校のときに作った木の箱が、奇跡的にパン一斤の大きさであることを発見する。きっちりフィットする洋館の食パンを入れ、持ち帰ることにした。

(2016年7月2日)

身体空間ペイントシステム

久しぶりに作っているペイントシステムは、画素が立方体で、身長より高い。画素の段差の谷間を歩くと、そこここで画素が自律的に反応し、形が生まれる。沢を登り、選択したツールを使って切り立った画素の崖を削り始める。1画素を加工するのに半日はかかるな、と思う。

(2016年6月15日)

着脱棒

もったりと重く項垂れた僕のペニスを、根元から外れた状態でSが弄んでいる。どう刺激しても、血管がつながっていないペニスは大きくも小さくもならないのだと言うと、それならとSはペニスが外れた僕の穴に挿し戻そうとする。いろいろな管が根付くまでに時間がかかると言うと、Sはペニスを翻し、今度は先端を穴に擦りつけてくる。

(2016年6月11日)

ステルス蛾

寺尾さんが金属製の蛾を捕まえてきて、日本軍はこうやってゆっくりと気づかないうちに戦争を容認させるのですよ、と言う。8階のバルコニーに出てみると、白いステルス機がひらひらと舞っている。向かいの棟の壁面にとまると、大きな三角形のステルス機はひたと動かなくなる。

(2016年6月8日)

木箱戦争

中野坂中腹にある屋台では、受付窓から次々と食べ物が提供され、集う同志に食べ方を説明する必要がある。
男は3階建て木箱の3階に布団を敷いて住みつき、監視と戦っている。事情を知らない女が布団に入ってきては裸のまま外に出ようとするので、そのたびに監視に見つかると諭すのだが聞いてくれない。監視は機械群で人間の形すらしていない。突然地面に穴が開きテレビカメラ状の眼で睨んでくるので、飲みかけの炭酸飲料を詰め込んでやる。
最下階の図書館にたむろする中学生は、監禁されていることを知らない。中二階の階段に潜望鏡のモニターがあり、そこに棲みつく鼠がいる。鼠の遺伝子に感染を試みると、鼠は次々と病になり、病の鼠が機械の中枢まで至り、ついに機械の感染に成功する。
かくして木箱のあちこちが壊れはじめ、木箱を操る監視の人影の退却が始まる。監視の影は去り際に、監禁された人間の服をターゲットに色彩の弾を放つだろう。われらはみな服を脱ぎ棄て3階の隅に退避すると、3階建の木箱ははじめて線路上を走り出し、交番の前で止まった。

(2016年5月17日)