下半身裸で動く歩道に乗っている。先に行くSamに続いて、自分も検査が始まる。腰の位置を動かして小さい鏡の枠の中央に性器の像が収まるように調整してください、と言われる。次は女性器の検査だと言われ、とまどいながら背後側を向けると、鏡の中に見たことのない自分の女性器が見える。腰を動かすと位置を合わせこめるので、これは確かに自分のものだ。
rhizome: 不意の裸
グンゼビル
お堀端のこのビルは建物全体が回転しているので、窓からの風景がゆっくりと一方向に流れている。終電も過ぎ、曖昧になってしまった待ち合わせを諦めようか迷っていると、グンゼの広告撮影のため集められた少年少女たちが白いメリヤス下着に身を包み、階段の手すりあたりでたむろしはじめる。勃起がパンツを押し上げているのを見つけられてしまった少年を、少女たちは面白がって取り囲み、一人の少女が自分のパンツを下ろして見せる。
壁面がまるまる電子書籍になっている隣のビルに、ちょうど窓の方角が合うのはこれで三回目だ。本が巡ってくるまでの間に自動でめくられた数ページぶん、物語が抜け落ちてしまう。もう帰ろう、そう決心して一階の出口に降りてくると、回転する鉄製ステップの意外な速さに怖気づいて、なかなか外に出ることができない。
エレベーターの隙間
女たちは病院の患者のように決められた服を着せられ、見え隠れする恥部や乳房を隠そうともせず、エレベーターAから別系列のエレベーターBへと乗り移っていく。
エレベーターの箱の奥にあるもうひとつのドアから、このビルのオーナーと思しき車椅子の女が、ほとんど人間の体をなさない崩れた塊として現れる。その箱の天井の上に紛れ込んだ僕は、ふわりと金属ワイヤをあやつり、なんとか建物の外に出ることができた。
ビルの傍らを流れる川には、夥しい都市の残滓が流れている。この風景はすでに何度もリプレイされているし、これからも繰り返されることがわかっている。
飛ぶガラス管の部屋
臍から性器に向かう細い道がある。その道が枝分かれする腹部を撫でながら、僕と女は進化樹の撹乱について、腹の上の図をたよりに議論している。
昨日は三角フラスコのような白くて小さいブラウン管が飛んでいた。なぜ無生物が飛翔するのだろう。今日は、カプセル錠剤ほどの小さいものが、部屋の中を飛び回っている。昆虫をつかまえる要領で掌に捉えると、それは乳白色の細長い豆電球で、簡単に割れ散ってしまう。
女は短すぎるスカートから裸の尻をむき出しにして、温泉のある建物に向かって歩いていく。背後から見ている僕には、尻の間から覗く一筋の線と、際どい肌の余白に彫られたfig.という文字が見える。たまたま玄関に居合わせた男が勃起を隠そうとするので、彼女の前の線も見えていることがわかる。ちょっとスカートを下にずらしたほうがいい、と温泉に消えていく彼女の背中に向かって何度も声を投げかけるが、伝わらない。
半透明ホテル
ホテルの高層フロアは、回の字に一周する廊下から外が一望できる。廊下の内側に面した各部屋は、壁が半透明のガラスで、内部がぼんやり透けていることを承知している客たちが、裸を巧みに隠しながら交尾をしている。ときおり、平板な女の胸が見える。
僕は、谷を挟んで向こうにある高層ビルの一室に、書類を納品しなくてはならない。おそらくトイレにいる連れを探して、水族館の魚のように廊下を何度も周回している。そろそろここを出なくてはならない。重要なのは書類そのものではなく、時間までに机の上に書類を乗せることである。
気遣い小学校
小学校の国語の授業を担当することになり、先生方と打ち合わせを始める。背後の窓際に眼をやると、陽射しの中でSamは胸をはだけたまま居眠りをしている。先生たちは、それをずっと見ていたはずなのに、誰ひとり指摘する者はない。そういう気遣いは誰のためにもならない。寝ぼけたSamを膝に引き寄せて、乳房が股にあたるのを感じる。
隣の部屋に設置された蒸気式の機械に、職人たちは枕の大きさもある餅を無造作に投げ入れる。餅には木屑などが付着しているが、餅は十分に大きいので、表面を削って内部だけを使ってもちゃんと結果は出力される。餡子をたっぷり包み込んだ柏餅をひとつ、頂戴する。
アクリル水着
大きなレジャーセンターの大食堂で、白い丸テーブルを囲む白い椅子に座っている。貸し出し用の水着は、透明アクリルの立体造型で、中に布製の水着を挟み込んでいる。他人が使っていてもこれなら気持ち悪くないね。傍らのSamとそう話してはいるものの、硬いアクリルが股にへばりついて気色悪い。Samは、ごわごわする胸のアクリルを外して、赤くなってしまった皮膚を見せてくれるのだが、ここで乳首を出したらみんな見るじゃないかと、僕はひとりで焦っている。
液体駐輪場
自転車を走らせて高木の家に到着すると、自転車置き場に自転車を収納するように勧められる。マンホールのふたのようなものをあけると、乳白の液体が蓄えられていて、その中に自転車を浸しておくのだと言う。高木の娘が収納の仕方を説明してくれる。
しかし、自転車を完全に収める間もなく、再び自転車で家に戻らなければならなくなる。せっかくのパーティーに必須のなにかを、家に忘れてきてしまったからだ。謝って済まそうとすると、Rが執拗に「自転車で取ってきて欲しい」と言うので、彼女にとってそれが今日もっとも大事なこだわりだったのだと気付く。
遠方の自宅までどうやって帰れるのか、頭に地図が浮かばない。どこかわからないのに、坂をどんどん下りきってしまう。ここはどの駅の近くですか、とおばさんに尋ねると、中野、と言って遠方を指差す先に見えるのはまたもや坂で、ふたたび僕は坂を上り始める。
黒衣の黒人が、葬式の提灯の前に立っている。しかたなく店の裏口から入り、表から出ると、ふと自分がパンツをはいていないことに気づく。黒人があからさまにじろじろと股間を見ている。失礼な男だ。
巨大昆虫篭
日暮の野原に忽然と建つ巨大な昆虫篭の中で、人なつこい農家のおばさんが、僕とSamにこの建物の中に生息する昆虫について話をしてくれるのだが、僕の頭には言葉の意味が入ってこない。Samは、僕以外の誰にも会わないと思ったから裸の上にコートを羽織って来てしまったと言って、ボタンを外して中を見せてくれたのだった。黒い暖かそうなコートの下の白い胸を思い出していると、網ごしに見える遠方の崖が突然崩れたりする。このおばさんの解説が終われば、どんどん暗くなる篭の中でSamとしたいことがいろいろあるのだが、と思いながらも、終わりそうにない話の抑揚を音楽のように聞いている。
見ながら出る映画
鎌田恭彦監督による作品の撮影が進行している。舞台上で、名前の思い出せない男優と女優がセックスしているのを、われわれは高い客席から眺めているのだが、どうも男と女の性器が入れ替わっているように僕には見える。誰もそのことに気づかない。
ドキュメントとフィクションの新しい融合を目指しているのだ、と鎌田監督が意気込みを語りはじめた。しかも編集とライブが交錯していて、撮影しながら編集し、それを観客に見せながら観客自身を登場させるのだと言う。
すると、なるほど僕がスクリーンに出てきた。石原裕次郎の歌を歌いながら、パステルで絵を描いているシーン。絵はまるで早回しのビデオのように、高速に仕上がっていく。この歌を歌った覚えがないし、この絵を描いた覚えもない。が、それはあきらかに僕の声と絵なので、とても恥ずかしい。隣でスクリーンを見ているRが「ああいう色の入れ方はタブーだ」と言う。自分の絵ではないが、余計なお世話だと思う。
次はRがビルの谷間の池で泳いでいるシーン。全裸なのにCGなので乳首や陰毛がない。鎌田さんが、もう1テイクこのシーンを撮りたいと言う。寒いからいやだとRが拒む。
次のシーンで僕は、宇宙連合軍に囲まれた敵役の総統になり、しゃべりながら顔の部分部分が自分になったりほかのものになったりする巧みなモーフィングに組み込まれる。雪の降りしきる現代の桜田門駅のあたりで、僕は殺られてしまい、よろめきながらさまよい、ついに力尽きて倒れると、半ば融けかかった雪の中で大根おろしに漬かった餅のように自分が見える。
確かに撮影済みの過去と撮影中の現在に切れ目がなく、これはすごい作品だ、と思いはじめたところで、先月若くして亡くなった日本画家某の葬儀会場にここを使いたいという人たちが雪崩れ込んできて、やむなくわれわれは撤収にとりかかった。
故宮ゲーム
小高い丘の上に、北京の故宮を思わせる広大な建造物がある。なだらかなスロープを登る動く歩道の両サイドは、凸凸凸凸形の石ブロックでできている。凸凸の間の窪みにすっぽりとかがみ込むと、まるで昔乗ったお猿の電車のように、ゆっくりと宮殿に向かって進んでいくのが楽しい。
と、突然「そこに座ることが何を意味するのか、おまえはわかっているのか?」と言う声。「そこに座って編隊を組むことは、対岸の編隊に対する戦線布告を意味する。おまえがそこに座ったおかげで、仲間を集めなくてはならないじゃないか」
いかにも迷惑げな口調で非難されるが、彼の顔は嬉々として昂揚している。編隊は芋虫の形をしており、僕は最後尾、芋虫の鍬型の尻に移動するように指示される。そうしている間にも、対岸の凸凸凸には関西勢が刻々と集まってきて気勢を上げる。
窓から垣間見る宮殿の内部には、緑色のサターンや魑魅魍魎、さまざまなクリーチャーが蠢いている。これからわれわれは内部に入り、戦いが始まるのだ。しかし、僕はこのゲームのルールすら知らない。
暗い宮殿に入ったとたん、僕は芋虫本体から離脱してしまう。ジャンヌダルクとして胸も露に登場したRに「ったくよぉ、何も知らないでここまで来るか?」と非難される。「私に任せておけ」と言う言葉に安堵するもつかの間、邪悪なオレンジ色の蝶に後ろから抱きかかえられ、捕獲されてしまう。これで、僕はゲームオーバー。
宮殿の外には、故宮の荘厳さとは似つかわしくない寒々とした空地があり、一台のブルドーザーが放置されている。そこに<安斎>と自分の姓が書かれている。従兄の安斎某が、中国にまで事業を展開しているのだ。彼は気さくだがけっこうずる賢いから、気をつけなくてはならない。
裸の町
サマンサという名前の女とふたりで、なぜか素裸で町を歩いている。
「こんな格好で、いいの?」と言うとSamは、
「平気。だってこういうの流行ってるんだから」
だけど、どこにも裸で歩いてる人なんかいないじゃないか。
ふと遠方の土産物屋に目をやると、妙に子供っぽい女が裸で買い物をしているのが見え、心底ほっとする。