rhizome: ペニス

飛行棒

男は固体燃料と飛行石を入れたペニス大の試験管につかまり、これに乗ってコンビニまで行くと頑なに言う。正門を出てすぐなんだから歩いていけばいいじゃないか。しかし男はどうしてもこれにつかまっていっしょに行こうと言う。地上1mくらいを滑らかに飛行できるが、頭を上に保つのは難しく、試験管を握ってもつれ合っていると、私そういう趣味はありませんから安心してくださいと男が言う。

(2017年8月23日)

着脱棒

もったりと重く項垂れた僕のペニスを、根元から外れた状態でSが弄んでいる。どう刺激しても、血管がつながっていないペニスは大きくも小さくもならないのだと言うと、それならとSはペニスが外れた僕の穴に挿し戻そうとする。いろいろな管が根付くまでに時間がかかると言うと、Sはペニスを翻し、今度は先端を穴に擦りつけてくる。

(2016年6月11日)

無言タイプの妹

検査のため病院のベッドに横たわっていると、下半身の衣服をまとめて引きずり下ろされる。先端に太いネジのついたゴムサックを性器に被せ「このまま少しつけていると、沁みだした液体を解読して全部の検査が終わるから」と看護婦さんが言う。
しばらく病院のあちこちを歩きながら、ゴムの先端ネジをカメラの底にねじ込むとぴったり嵌る。思った通り、雲台と同じネジ規格だ。看護婦さんがサックを外しに来る。もったりと他人のような性器が現われ、濡れた薬の匂いを放っている。
一人乗りの小さい車で水路沿いのバラック小屋に帰ると、玄関の前で声をあげて争うふたりの子供がいる。仲裁のために近づくと、子供の姿はなく、水の入った二つのペットボトルの間に赤い蟻が行列を作っている。玄関から覗くと、妹が帰ってきている。お医者さんから検査結果を聞くのを忘れてうっかり帰ってきちゃったよ、とおどけてみせるが、妹は終始無言だ。何か怒っているわけではない。これは声が欠落した種類の妹なのだ。

(2015年7月1日)

グンゼビル

お堀端のこのビルは建物全体が回転しているので、窓からの風景がゆっくりと一方向に流れている。終電も過ぎ、曖昧になってしまった待ち合わせを諦めようか迷っていると、グンゼの広告撮影のため集められた少年少女たちが白いメリヤス下着に身を包み、階段の手すりあたりでたむろしはじめる。勃起がパンツを押し上げているのを見つけられてしまった少年を、少女たちは面白がって取り囲み、一人の少女が自分のパンツを下ろして見せる。
壁面がまるまる電子書籍になっている隣のビルに、ちょうど窓の方角が合うのはこれで三回目だ。本が巡ってくるまでの間に自動でめくられた数ページぶん、物語が抜け落ちてしまう。もう帰ろう、そう決心して一階の出口に降りてくると、回転する鉄製ステップの意外な速さに怖気づいて、なかなか外に出ることができない。

(2012年10月7日)

下着選び

なにかの企画で下着一枚の写真を撮られることになり、自分にふさわしい一番いかした選択をしなくては、という気持とは無関係に真っ赤なトランクスなどを選んでいる。自分らしくないことが好きな自分は自分らしいだろうか、という思索をめぐらせながら、手袋に紐をつけたような毛糸のペニスキャップを手が勝手につかんでいる。

(2005年5月23日)

白いタイルの口

久しぶりに訪れた実家の外壁が、白い総タイル張りになっている。強いスポット照明のあたる一枚だけ、人間の口と鼻のレリーフになっている。ぽっかり開いた口の中から外に向かって、強い筆勢で黄色い釉薬が塗ってあり、なかなかすばらしいタイルを見つけたものだと感心していると、コートを着た背の高い女が玄関の前に立っていて、いきなり接吻してくるその女の口も同じ黄色に染まっている。
実家に入ると、襖の向こうの明るい部屋で、従姉の婚約者が大仰に話をしているのが垣間見える。小便をしたくなって便所の戸を開けると、そこに便器はなく、母親が溜め込んだ紙の手提げ袋がぎっちり詰めこまれている。トイレはこっちに移ったのよ、と開けられた襖の小部屋は、四方の襖がどれも完全に重なりきらないので、相変わらず大仰な男の背中やテレビの画面が見える。落ち着かないまま部屋の真中の便器に小便を始めようとするのだが、半分勃起したペニスはなかなか小便を開始できない。

(2003年2月18日)

イクラのありか

コンクリートの地下にある埃っぽい部室で、秘密結社めいたサークルの連中がそれぞれの行為に没頭している。天井から吊った針金でスルスルと自在に上がり下がりを繰り返す男が、そろそろ健康診断が始まると言っている。半田ごてを握った男は、どんな大出力でも壊れないスピーカーに、百ボルトの電灯線を直につないで「なかなか頑丈だね」と感心する。僕は男子生徒女子生徒が混じるトイレで、検査の尿を採取するように言われる。こんな健康診断は、どうせ予算消化のためにやっているに違いない、役人の考えることといったら、と憤りながら、ふと自分がイクラを孕んでいることを思い出した。毛細管に危うくつなぎとめられたひと房のイクラを、ペニスの先の包皮で包んで、壊れないように注意深く抱え込んでいるのだった。こんなところにイクラを隠しているのがばれたら弁解が面倒だし、第一恥ずかしい。誰にも知られないことを願いながら、拭い取ったティッシュごと赤橙色の塊をごみ箱に投げ入れた。

(2002年4月4日)

ペニス包み

電車の先頭車両に、木製の机が置いてある。勃起したまま取り外された自分のペニスをコットン製のキッチンペーパーに包み、机の引出に入れる。乾ききらないようにペーパーを湿らせたものの、まだ生暖かい自分自身を身から離すのが心もとなく、切り離された勃起の持続について考えている。

(2001年11月4日)

黒い水棲あけび

山岳地帯を奥へ分け入っていくと、突然その村は現れた。岩を切り出した広い溝に、木の皮で作った幌がかけてあり、幌の下に「何か」がたくさん保管されている。あやうく幌に足をかけ、中の「何か」を踏みつぶしそうになると、「何か」はそこで生活しているたくさんの人の頭であることがわかる。こんな暮らし方もあるのか、と声を漏らすと、この村には雨ざらしの岩の上で手足を縛られて暮らしている女たちもいる、と幌の中の誰かが説明を加える。

山を降り、いつのまにか急流に囲まれた畳岩の上に取り残されている。まるで雨ざらしの女たちのように、身動きがとれない。カウボーイ風の父親が畳岩に這いあがってきて「さてわれわれは何を食って生き延びようか」と言う。父は川の中に手を差し入れ、そこに生えているあけびのような実をもぎ取った。
「これは食えるだろうか」と父。さあ、どうだろうと答える前に、父はすでに美味そうに頬ばっている。
ふと、あけびと同じような形をした黒い動物が、すばやい動きで川の中から近づいてきて股間に貼りつく。それは払いのけても数十秒もするとまたやってきて、同じように貼りつく。父の股間にも、同じ種類の黒あけびが貼りついているが、父は「俺は放っておく」と、まるですっかりおなじみの事態であるように、相変わらずあけびを食い続けている。そんなものかと思って自分も放っておくと、睾丸の袋までしっかり取りついたそれは、じわじわと養分を吸い出しはじめているようだ。

(2000年2月16日)

巫女の楽器

東上線沿線の山寺を改造した蕎麦屋に来ている。板の間に腰を下ろし蕎麦を待っていると、白装束の巫女が僕の股間に顔をうずめてペニスを舐め始める。思わず発した自分の声を、自分で止めることができない。巫女が指で管を開閉するまま、声が笙の和音になってしまう。

(1999年6月12日)

いやな釣人

パイナップルの山だ。異国の女たちが群がっている。そこには、何種類かのパイナップルがある。「端的にどれを選べばいいのか教えて欲しいんだ」と言う僕の問いに快く答えてくれた女に、あやうく惚れそうになった。
そこいら中の人が、祭りに沸いている。目の前をビュンと音をたてて、釣り糸が飛び交い、ファンファーレが鳴る。裸の少年たちが並んで、ペニスをラッパの角度に勃起させている。いちばん右側の一人だけは、いっこうに立たない。彼はあきらめたのか、ひゅるひゅると音をたててペニスを体の中に格納してしまった。
釣針は、かなり遠方にいる犬の口から、犬のくわえていた食い物を奪い取る。食い物は僕の目の前をよぎって、釣人の手元まで引き寄せられる。釣人は得意げだが、それに飽き足らないのか、犬のかわりに小学校の教室にいる一人の女の子の口から何かを釣り上げたいと言う。いやな奴だ。僕は彼に、ウイリアムテルかロビンフッドを例にあげて抗議する。その両者の区別が、ときどき危うくなる。息子の頭に載せたリンゴを射抜くにしても、そこにはかなりの信頼関係がないといけないわけで、見ず知らずのおじさんに、女の子がそんなことを許すわけないじゃないか!
いつのまにか、釣人は白いあご髭をたくわえている。彼は片手の親指と人差し指を使って、髭の輪郭に波形を描いてみせる。すると、髭のエッジが青く染まる。手のしぐさだけでそうやって幻覚を引き起こそうっていうのなら、僕だってこうしてやろう。僕は、髪をおもいきり前から後ろに振り上げると、歌舞伎役者の隈取りの幻覚を引き起こすことができたようだ。こいつにだけは、負けるわけにはいかないのだ。ともかく、いやなやつなのだ。

(1996年11月15日)

ボルゴさんの子供

彼の子供には形がない。なまこのようでもあり、ウニの刺し身のようでもあり、ペニスのようでもある。口があって話ができる。時折、ペニスの先の穴のような口で噛みつく。その子供をソファの片隅に乗せて、広大な要塞から救出してきた。
ボスは、その子供を捕らえようとしている。子供は相手の顔にしがみつくと、まるで変形ロボットのような構造を有機的に変形し、相手の身動きを封じ込める。
トランクに隠していた子供が見つかってしまい、組織のボスの手に渡ってしまうが、しかし子供は今度は液体になって、地面に染み込んでいく。父親に「なにかあったら、呼んでください」と言い残す。

子供の父親はボルゴさんという名前で、正義の味方として活躍するボルゴさんの連続ドラマがはじまる。ボルゴさんがやってくると、彼の手には大きな手袋に変形した子供が嵌っていたりする。ボルゴさんは関口ひろしのように笑いながら登場し、今週は入院している悪人の点滴や人工呼吸機にしがみついて、彼らを滅ぼしてしまう話だ。
ボルゴさんの番組を見ていたら、いとこのYがやってきて「宿題はどうした」としつこく尋ねる。

(1996年9月2日)