巨大昆虫篭

日暮の野原に忽然と建つ巨大な昆虫篭の中で、人なつこい農家のおばさんが、僕とSamにこの建物の中に生息する昆虫について話をしてくれるのだが、僕の頭には言葉の意味が入ってこない。Samは、僕以外の誰にも会わないと思ったから裸の上にコートを羽織って来てしまったと言って、ボタンを外して中を見せてくれたのだった。黒い暖かそうなコートの下の白い胸を思い出していると、網ごしに見える遠方の崖が突然崩れたりする。このおばさんの解説が終われば、どんどん暗くなる篭の中でSamとしたいことがいろいろあるのだが、と思いながらも、終わりそうにない話の抑揚を音楽のように聞いている。

(1998年1月21日)