rhizome: 買い物

操車場の樹林

暗い地下鉄の操車場に、針葉樹が整然と生えている。油と鉄粉で覆われた黒い地面から、はるか先端が見えないほどの木々が聳え、その先端を支えにして地上が乗っている。
nanayoは地上の屋台で買い物をしている。鍛冶屋が手で作った金物は、ひとつひとつ木箱に入っている。nanayoは紙のように薄く延ばした鉄のパレットナイフを選んで買ったそうだ。花火屋からは、茶巾に導火線のついた花火もいくつか買った。これから向かう先が華やぐから、そう言って僕もいくつか花火を買う。

(2008年3月12日)

万能スノーボート

新種のスポーツだ。スノーボートのようだが、湿地、田んぼ、草っぱをぐんぐん滑っていける。簡単で気持ちがいい。本当はもっと別な、もっと難しいことをするつもりでここに来たのだけれど、日も沈みかけているし、ちょうどこの程度が楽しくていい。そう思っていると、小島陽子さんが、
「私が今日買うとしたら、これかしら」と、もう買う気でいる。それじゃ、プロの**さんに紹介しよう。
部室のような狭いところで、名前を思い出せない彼は、草の上を走るのは邪道だというようなことをさかんに言いはじめる。
「それは、本格的なものはこの程度じゃない、という意味ですか?」
「そうだ」とプロ。
小島さんが、買うか買うまいか、悩みはじめてしまった。

(1996年7月13日)

裸の町

サマンサという名前の女とふたりで、なぜか素裸で町を歩いている。
「こんな格好で、いいの?」と言うとSamは、
「平気。だってこういうの流行ってるんだから」
だけど、どこにも裸で歩いてる人なんかいないじゃないか。
ふと遠方の土産物屋に目をやると、妙に子供っぽい女が裸で買い物をしているのが見え、心底ほっとする。

(1996年1月21日)