案内の女子高校生の後について吉見百穴のひとつの穴に入る。どの穴から入っても内部の大きな空間につながるはずだが、穴はむしろどんどん細くなり、四つん這いになった女子高生を追ってどんどん奥に入っていく。岸辺から川に迫り出したホテルのベッドメイキング後の枕元に、プラスチックパイプに入った鉛筆の芯が置いてある。固めのチョコレートでできているので食べられる。並びの部屋のRはきっと気づかないから、捨てちゃだめだと伝えなくては。
rhizome: 女子高校生
生物教室放出品
古いコンクリート造りの校舎で、生物学教室の廃棄品を放出している。染色液が漏れたプレパラートや、青く変色した児童文学全集がある。各病院から二人までと言われているが、無関係の自分や女子高校生が紛れ込んでいても咎められることはない。根元から折れた水晶の柱は、断面がつるつるになるまで磨滅している。道に埋められていたからだろうか。女子高校生が手にとると、水晶の下から顕微鏡のXYステージが現われる。女子高校生とじゃんけんをして手に入れる。ただ、彼女はじゃんけんの原理がわかっていなかったかもしれず、腑に落ちない顔をしていた。ツマミを回すと驚くほど滑らかに上台が滑る。先端に穴のあいた彫金用スクレイパーをポケットに入れる。
何枚もある素描を見ていると、老いた女が「この絵は息が詰まる」という。これは死んだ画家とその弟子が描いたものだが、どちらの絵がそうなのか尋ねると、女は黙ってしまう。彼女自身、山下という画家のゴーストペインターだったと言う。
地下室に陽が当たるのは、地上から掘られた深い崖底に出るガラス戸があるからで、外に出ると地上に続く坂がある。大和田さんが、地上までの坂道をバギーに乗せてくれる。
藻類標本小屋
ぜひ見せたいものがある、と黒人の庭師に案内されたのは広い芝生の隅にある黒く塗られた小屋だった。持っていたノートを芝生に置き、上下に開くガラス窓を開けるのに手を貸すと、小屋の中にはさらにもうひとつ小屋がある。中の小屋から屋根を外すと、それは木の水槽だった。なみなみと張られた水はなぜか絶えず流れ、世界各地から集められた水藻が糸見本のようにたなびいている。集まってきた女子高校生たちが「わあ綺麗」と声をあげるが、暗く絡まり合う藻は美しいというより恐ろしい。
そろそろ講義が始まる時間なので、と言ってその場を離れるとノートがない。高校生のひとりが遺失物として届けたと言う。彼女に案内されて教務課に出向くと、薄い和紙をカットして作ったシールを受領証明としてノートに貼らなくてはならないと言う。安齋というアウトラインフォントの複雑な不要部分を剥がしながら、申し訳ないけれど授業が始まるからと、撚れた齋の字を無理やり手で押さえつけた。
蛾で封印
高架駅への近道だ、と思って細い階段を昇りきると、もう一度降りないと駅にたどりつけない「徒労の階段」であった。あきらめて階段を下り、次の上り階段にさしかかる谷に、風呂桶ほどの水溜りがあり、顔色の悪い裸の女子高校生が泥水に漬かっている。早く帰宅するようにたしなめながら死体のような女を引き揚げると、意外に体温は高く、声も快活なので安心する。狡猾な男の腕のようなものが女の性器から外れ、泥水に浮いている。女を捕らえていた邪悪な男性器のようなものの周囲に、ぐるぐると蛾の吐き出した糸を巻きつけておいた。
黄色い彫刻に身を隠す
ニューヨークがまだいたるところ森林だったころ、私は小型の蒸気機関車にまたがり、運転士をしている。森を走り抜ける蒸気機関車は、時に脱線しては線路に復帰するほどラフな走りで、客車にはポッキーを食べている女子高校生の群れが見えた。
線路沿いに、マッチ箱を立てたようなギャラリーの長屋がある。ギャラリーの向こうには、広い坂道がある。その坂道を、高速で走る車がごろごろ転げ落ちる。ギャラリーの女性オーナーは、大きなガラス窓ごしに事故の光景を眺めながら、なぜ人は蒸気機関車のようにゆっくり走らないのか、なぜ死に急ぐのか、と演劇風に嘆いている。
私の名はモー(というらしい)。事故で死んだ女(私のかつての恋人パトリシアらしい)を抱えた組織の男が、ギャラリー界隈でモー(私)を探している。私は、もう面倒はゴメンだ。
私は、崖っぷちに林立する黄色い鉄骨の彫刻群に向かって歩きはじめた。胸のポケットに挿したレンタル万年筆が壊れないように気づかいながら、巨人彫刻の肩によじ登り、私は私を探している男と死んだパトリシアの人影を見ている。