警察署の周囲に張り巡らされた有刺鉄線が、ことごとく糸こんにゃくと化し、余った針金は「しらたき」として束ねて結んである。遠く崖線に沿って走る高速道路の上を、捕縛を逃れた巨大な白い人がゆっくり歩いていくのが見える。
rhizome: 警察
バイク炎上
アルミ製キューブをボルトで組み合わせたバイクが、自動車とガスを交換している。それは非常に危険な行為だからやめたほうがいい、と実家の二階の窓から乗り出して忠告するのだが、案の定バイクは玄関までふらふらと移動し炎上しはじめる。この番号を押すのは生まれて初めてだと思いながら119番に電話をかけるのだが、電話回線が燃えてしまったのか、音がしない。到着した警察官は、これは日常的な出来事だからと笑顔で帰ってしまう。巨大なクレーンをあやつる業者がバイクの撤去費用を請求してくるので、彼の頬を軽くたたいて「それはまるでこうやって殴られたうえに殴られ代をとられるようなものじゃないか」と言うのだか、この男には複雑すぎる比喩だったかと後悔する。母親はそんなごたごたのなか、黙々と一階の障子を張り替えている。
銀河の見える屑鉄屋
首都高を走っていると、トラックの荷台から「これに乗り換えろ」と木の台車を差し出す男がいる。言われるまま乗り換えて、片足で蹴りながら首都高の陸橋を走る。これはたぶん道路交通法違反だと気付くと、前方に警官も見えてきたので、陸橋の途中からなめらかに斜めに分岐する道を降り、ここまでやって来た。
日本中のレアメタルを集めている屑鉄屋の暗い倉庫の中で、そこの息子の家庭教師をしている。小太りの子供といっしょに屑鉄の隙間から夜空を覗くと、雲間からまるで鱗雲のような銀河が見える。
テクスチャーマッピング
鉄道警察は広大な吹き抜けのある建物の九階にあり、改札でカードを入れ間違えたことをさんざん詰問されたあとで、さて九階から一階をストレートにつなぐ長いエスカレーターを降りようか、あるいは撮影しながらじっくり階段を降りようか迷っている。
九階ホールには浅く水の溜まった窪地があり、そこを通過する人の上半分が、黒ゴマ豆腐の質感にテクスチャーマッピングされる。自分もその窪地に入ってみると、周囲の人が憐みの混じった奇異の目を向けるので、自分も同じように黒ゴマ豆腐化して見えていることを理解する。いや僕が可哀そうではなく、これは解釈の問題、見る側の問題なのだ、と反駁したいが石化した神話の人物のように声が出ない。
四階広場で、結婚を約束したnanayoさんが鏡に向かって髪を梳っている。これから僕の親に会うために、髪のある高さの一周だけ細かいパーマをかけている。それはきっと僕の親には理解されないだろう、と彼女に言う。
国道の机
竹箒のトゲが指にささってしまったので、ゆったり椅子に座って、机の上に置いてあるピンセットで抜いていると、自分の机だけすっかり国道の中央分離帯の一端に取り残されていることに気づく。車中の男が警官に「あそこは私有地じゃないよね。取り締まらないのか」と執拗に食い下がるのが見える。いやなやつだ。警官はとりあわないが、きっとあの男は、あとでこの机の上の文具を一式、盗みに来るつもりだろう。
机から離れて歩道に出ると、自分の机の背後に深い穴があり、地下鉄工事がすぐそこまで進行してきている。そろそろ潮時なのだろう。あの場所をどうにかしないと。