rhizome: 中州

中洲宴会

自宅裏手の深く切り込んだ崖に、珪藻土の小片を落としてしまう。強力なライトで崖底を照らすと、老婆がまぶしそうに見上げながら珪藻土をこちらに差しだしてくれる。老婆からはライトを持っている人間は眩しくて見えない。駅前の人の流れを分ける小高い中洲で、飯田くんと水越さんが宴をひろげている。歩道橋に陣取った放送ブースの男が、中洲呑みはメディアか、などとめんどくさいことを聞いてくるのでシカトする。遠方に見える自宅の照明が灯台のビームを出しているのを見て、照明は照らされる側にとって暴力だと飯田君がいう。操車場の貨物列車に乗った数百体の彫刻が、シルエットの行列をなしていま動き出したところ。

(2017年12月31日)

バベルカフェ

ブリューゲルのバベルの塔は中が吹き抜けになっていて、それぞれの区画から内側にせり出したデッキは、オープンカフェなどになっている。デッキからデッキへと螺旋を下って地上階まで来ると、父がいないことに気付く。川の中州を探しまわっても見当たらない。塔の地下にある大浴場で溺れている可能性もある。しかし水中の死体を見るのが恐ろしくて、足がそちらに向かない。

(2014年8月3日)

船を積み重ねたレストラン

川の中州にある高層レストランは、船が堆積してできている。船は積み重ねるのに適した形をしていないために不安定で、階を上がるごとに傾斜が蓄積して揺れも大きくなる。河合奈保子さんといっしょに登りながら、ここまで登って来られたのは彼女がみんなにたくさん笑顔をふりまいてくれたからだ、と感謝の気持ちが沸いてくる。最上階の船までたどり着くと、はるか地上の川面がきらきら輝いている。平らであるはずの甲板は、揺らぐたびに曲面に見える。波打つ斜面を滑り台のように滑るのが楽しくて、せっかく登った高度をすっかり無駄にしてしまった。

(2004年4月2日)

国道の机

竹箒のトゲが指にささってしまったので、ゆったり椅子に座って、机の上に置いてあるピンセットで抜いていると、自分の机だけすっかり国道の中央分離帯の一端に取り残されていることに気づく。車中の男が警官に「あそこは私有地じゃないよね。取り締まらないのか」と執拗に食い下がるのが見える。いやなやつだ。警官はとりあわないが、きっとあの男は、あとでこの机の上の文具を一式、盗みに来るつもりだろう。
机から離れて歩道に出ると、自分の机の背後に深い穴があり、地下鉄工事がすぐそこまで進行してきている。そろそろ潮時なのだろう。あの場所をどうにかしないと。

(2000年10月31日)