rhizome: テクスチャー

自律岩絵具

基礎デザイン研究室でコーヒーを飲んでいると、Hが面白い画材を見つけたと言う。ふたつの色を塗り分ける境目に幽玄な風景が勝手に現れる岩絵具で、旧街道の日本画画材店が開発しているらしい。顔料の粒子がそれぞれアトラクタになって陣地を競っている、というのが僕の仮説。Hは網タイツを重ね着して、タイツの隙間に何人か別の人が嵌りこむエロいワークショップをやっている。幽玄な景色を見に行こうと、小皿を掌に載せてアーケードの商店街を歩くと、皿のなかで緑の果汁と黄色いマンゴーが反応して芳香を放ちはじめる。

(2018年1月15日)

テクスチャーマッピング

鉄道警察は広大な吹き抜けのある建物の九階にあり、改札でカードを入れ間違えたことをさんざん詰問されたあとで、さて九階から一階をストレートにつなぐ長いエスカレーターを降りようか、あるいは撮影しながらじっくり階段を降りようか迷っている。
九階ホールには浅く水の溜まった窪地があり、そこを通過する人の上半分が、黒ゴマ豆腐の質感にテクスチャーマッピングされる。自分もその窪地に入ってみると、周囲の人が憐みの混じった奇異の目を向けるので、自分も同じように黒ゴマ豆腐化して見えていることを理解する。いや僕が可哀そうではなく、これは解釈の問題、見る側の問題なのだ、と反駁したいが石化した神話の人物のように声が出ない。
四階広場で、結婚を約束したnanayoさんが鏡に向かって髪を梳っている。これから僕の親に会うために、髪のある高さの一周だけ細かいパーマをかけている。それはきっと僕の親には理解されないだろう、と彼女に言う。

(2010年2月6日)