rhizome: 白い人

老婆のいる廊下

部屋ほどの広さのある暗い廊下に、割烹着を着たおたふく顔の老婆があらわれる。薄く開いた戸から光が差し、顔だけ露出オーバーで白く抜けている。僕はぞっとして、老婆から逃れるために「あきらさんはいますか」とでたらめの名前を言った。人違いを装ったはずなのに、白い老婆は「あきら、あきら」と奥の部屋の実在のあきらを呼びはじめる。

ここまでが「あまちゃんの実家は忍者だった」にはじまる縦書き一段組の最後で、縦書き四段組みの後半は、ここから四つの物語に分岐する。

(2013年12月17日その1)

パズル的な神事

白い人が集まり、宮司が神事を執り行っている。長方形の入れ物の長辺よりもさらに長い木の棒を、皆の手によってうまく収納しなくてはならない。このパズルを解くことが、神へ通じる巧みなのである。だからここでは、タンスをエレベーターに斜めに入れて運ぶ引っ越し業者がいちばん神に近い。
祭りが昂揚し棒が高く揚げられたところで、宮司が僕を手招きする。自分は引っ越し屋ではないからとためらいながら近づき、皆とともに棒を担ぎ上げると、足もとの地面はベルトサンダーの回る布やすりで、黒い革靴の底をどんどん削り取っている。数年ぶんの摩耗を使い果たし、帰路ふと靴を見下ろすと、削られたのは靴底ではなく靴の上面で、ところどころ薄くなってしまった革から素足が透けて見える。

(2013年2月10日)

白滝と巨人

警察署の周囲に張り巡らされた有刺鉄線が、ことごとく糸こんにゃくと化し、余った針金は「しらたき」として束ねて結んである。遠く崖線に沿って走る高速道路の上を、捕縛を逃れた巨大な白い人がゆっくり歩いていくのが見える。

(2012年10月16日)