自宅裏手の深く切り込んだ崖に、珪藻土の小片を落としてしまう。強力なライトで崖底を照らすと、老婆がまぶしそうに見上げながら珪藻土をこちらに差しだしてくれる。老婆からはライトを持っている人間は眩しくて見えない。駅前の人の流れを分ける小高い中洲で、飯田くんと水越さんが宴をひろげている。歩道橋に陣取った放送ブースの男が、中洲呑みはメディアか、などとめんどくさいことを聞いてくるのでシカトする。遠方に見える自宅の照明が灯台のビームを出しているのを見て、照明は照らされる側にとって暴力だと飯田君がいう。操車場の貨物列車に乗った数百体の彫刻が、シルエットの行列をなしていま動き出したところ。
rhizome: 崖の上
屋上が一階
谷通りに面した建物の一階から、螺旋階段を昇り、階ごとに色の違う店(黄色い泥を壁に塗った店、青い粉を詰めたタッパーを無数に積み上げた少年の店、白いブランクの店)を覗きながら最上階にたどり着くと、再び一階の表示がある。崖に沿って建つビルの最上階が、ちょうど高台の地上の高さだからだ。
山の一階から再び谷の一階に降りるために、建物の屋上へ戻ろうとするが、崖と屋上の隙間が広すぎて、谷底を見ながら跨ぐことができない。
裏山の円卓
会田くんは自分のビルの階段を駆け上がり、階段と地続きになった裏山の坂を登り始めた。人がぎりぎり登攀できる急峻な坂で、狭いトンネルをくぐりながら会田くんはズボンを脱いでしまう。Rは「パンツも脱いじゃえ」と囃したてる。この会田は、何人かの知っている会田が混ざっている。坂を登りつめると、視界に広がるグラウンドに向かって歓喜の雄叫びをあげ、われわれ3人はぬかるみの中に放置された円卓を囲み、会田くんの友人たちと狭苦しい現代美術の話などをした。
目白台高原喫茶
内田洋平と瀬川辰馬が、それぞれ縄梯子の一段を補修パーツとしてビニール袋に入れて所持している。僕はこれから栃木の祖母に会いに行く。彼らはこれから日経ウーマンのプロジェクトが忙しくなるので、なかなか会えなくなると言う。それではどこかで茶でも飲もうということになる。
新宿から山手線に乗り、目白の坂を登るところで電車はロープウェイに切り替わる。目白の垂直に切り立った岩場には、蔦の密生する廃屋がめり込んでいて、彼ら二人はどうやら廃屋内部を梯子で登り始めたようだ。廃屋最上階にある崖っぷちの喫茶店に入り、箱と番号が一致しない下足札を渡され、濃厚すぎるウィンナコーヒーを立ち飲みしながら彼らの到着を待っている。
白砂ケーキ
崖を見上げると、斜面の岩を切り出した巨大な時計が見える。時計の側面には、子供のころ寝床から見上げた真鍮製の置時計と同じレリーフが彫ってある。あの丘の上の店を目指して歩いていけばいいのだ。店にはNTTの大和田さんがすでに到着している。テーブルには、シフォンケーキ型で抜かれた濡れた白砂がきっちり形をとどめている。ソフトバンクの犬のCMの演劇性について語りあいながら、白い砂を少しずつ掻き出す。こんな無駄な砂を入れていたからいつも鞄が重たかったのだ、と大和田さんが言う。