「生成のヴィジュアル」展より

数年前、アジア美術館でワークショップを行った際、隣の壁面に圧倒的な泥絵を成長させつづけていたのが淺井裕介で、僕はそのとき彼の脳のデフォルトモードに溢れる並列演算を機械化できないか、と夢想しました。 http://cambrian.jp/anzai/mixi/diary/1251914365.html

その淺井さんと、オートポイエーシスを創作の戦略としてかかげる村山悟郎が作家同士共感しあい、ギャラリーの壁を埋め尽くす展示をおこない、しかも数年前の僕らの講義を盛り立ててくれた下西風澄がトークをするというので、柏のTSCAまで行ってきました。

彼らはそれぞれ局所的な作用で絵を描く作家だけれど、未知だった大山エンリコイサムとの響きあいもあり、作家同士のカオス結合がもたらす大きな形がTSCAの空間を圧し支えているような感覚を覚えました。

全体の計画をもたず部分から組織される生成の方向にしたがって、クローズアップから作品を見始めると、異質だったはずの三者が共通するイディオムをもっていたり、べニア板やマスキングテープをシェアしていたり…

一見いい感じのエスニック風な淺井作品が、作家よりも深いところにある自律系に駆動されているように見えたり、外部的な規則で描いている村山作品にとってノイズである無意識の選択がシステムの一部に見えてきたり。

互いが互いの潜勢を開くことも、行為と触発の循環の一部をなす、すばらしくスケールフリーな展示でした。
(2013年11月25日 安斎)

Yusuke Asai, Ōyama Enrico Isamu Letter, Goro Murayama
生成のヴィジュアル ‒ 触発のつらなり
“Generating Visuals -Inspiring Circuits”

淺井裕介

1981年、東京生まれ。絵描き。テープ、ペン、土、埃、葉っぱ、道路用白線素材など身の回りの素材 を用いて、キャンバスに 限らず角砂糖の包み紙や紙ナプキンへのドローイング、泥や白線を使った巨大な壁画や地上絵のシリーズまで、あらゆる場所 と共に奔放に絵画を制作する。























村山悟郎

1983 年、東京生まれ。美術家。自己組織的に生成するプロセスやパターンを、絵画やドローイングをとおして表現している。 2011 年チェルシーカレッジ MA ファインアートコース(交換留学)、2012 年東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。 現在、同大学院後期博士課程に在籍。









大山エンリコイサム

1983 年、東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、東京芸術大学大学院修了。グラフィティの視覚言語から抽出された「クイックタ ーン・ストラクチャー(Quick Turn Structure)」というモチーフを軸に、ペインティングやインスタレーション、壁画などの 作品を発表する。また現代美術とストリートアートを横断する視点から、執筆活動も並行して行なう。2011 年秋のパリ・コレ クションでは COMME des GARÇONS にアートワークを提供するなど積極的に活動の幅を広げている。現在ニューヨーク在住。

”グラフィティは名前としてかかれるから、その造形はデザインされた文字の組み合わせ(レタリング)なのだけど、この「名前」というのがここで問題になる。

公 共空間に名前をかくという行為は政治闘争的な解釈を呼びこみやすい。それから名前=文字であるということは、それが「読める/読めない」「リテラシーがあ る/ない」というかたちでコミュニティ内外の温度差をどうしても引きずってしまう。そして造形的にも、グラフィティの独特なデザイン性が、結局は文字型と いう外枠に規制されてしまう。名前であることがいろいろな意味で足かせになっている。

だからぼくのやっていることは、グラフィティ・レ タリングから文字型をはずし、クイックターンという描線の運動だけを取り出してきて反復することで、抽象的なモチーフへと再構成していくという作業。その モチーフをクイックターン・ストラクチャー(Quick Turn Structure、以下QTS)と呼んでいる。”