宮原さん最近どうしてる?と訊かれて、TwitterやFacebookで宮原美佳を検索するが、エリアごとに違う検索をするのが面倒なので、宮原さんをガラスキューブに置き換えて各SNSに配置することにした。ガラス面に描かれたエナメル絵具の顔は、厚く塗り過ぎて顔に見えない。「ガラス絵は裏面から見ないとだめですよ」という宮原さん自身のコメントがガラス面についた。
rhizome: ソフトウェアの中
砂のゲレンデ
一面砂の斜面は、一度降り始めたら止まらないほど急峻なゲレンデで、先に降りてしまった相方がどこにいるのかもわからず、怖気づいて滑り出すことができない。しかも、スタートラインより前は広告ページになっていて、どのページまでが広告なのかは、見る人によって判断が異なる。また「しまぶくろの理論」と称する解説ページも挿入されていて、斜面を滑るときの意識の集中ゾーンがおでこのあたりにあることが示されている。ページをさかのぼって屋上には、白いコンクリートにローラーを転がして、亀裂に雑草を植えている男がいる。
ThinkPadの川海老
ThinkPadの深いディレクトリに、ここで見せるべきプログラムが入っているにもかかわらず、その起動方法がまったく思い出せない。ディレクトリを一段降りていくたびに、記憶が朧げになる。なかばやけになって、キーボードの下にあるもうひとつの蓋をあけると、小箱のような水槽から川海老があふれてしまっている。いくつか手で掴んで戻すが、ほとんどは動きもせず死んでいるようだ。こんな作りじゃ、鞄の中で水がこぼれてしまうじゃないか、と、いい加減な設計者に対する怒りがこみ上げてくる。
検索書店
カフェのようだが本業は本屋なので、ウェイトレスに「こんな本が欲しい」と注文すると書庫から見つけてきてくれる。早速二冊の本を注文すると、一冊はすぐに持ってきてくれた。しかし次の一冊を探しに行ったきりなかなか帰ってこない。こういうときはもう一度検索ボタンを押すといいのだけれど、なにがその操作にあたるのか。そもそも何をお願いしたのかも思い出せない。やはりこのシステムはダメだと思いながら、一冊目の「知識に関する秘義の辞典」をぱらぱらめくってみる。
粉の鍵
要塞のように入り組んだ地下の一室で、髪を丁寧にオールバックにした石井裕、その娘、僕の三人でテーブルを囲んでいる。
隣接した電算室には中国人の技術者が一人、別の部屋には何人かの乳児と保母。機密が漏れてはならないと、石井は声を潜めて新しい認証システムについて説明し始めた。
「この鍵は、粉でできている」彼はガラスの小瓶を示した。
「この粉の瓶を金庫に挿入し、しかも粉の組成を正確に言い当てないと、鍵は開かないのです。たとえば草、花、木、というように」
娘が弁当箱大の容器に入った白い顆粒に液体をかけると、一瞬青白い光を放ち、液の中で草や花や木の記号の形をした小さいゼリーが浮遊しはじめる。これがパスワードなのだ。
娘が「ねるねるねるね」と言いながら混合物をかき混ぜると、形は壊れて糊状の塊になった。
「この糊を乾燥させると、……粉になるわけです」
僕はこの卓越したアイデアに感動しながら、しかし心のどこかで「何かが冗長だ」と思っている。