rhizome: 本屋

検索書店

カフェのようだが本業は本屋なので、ウェイトレスに「こんな本が欲しい」と注文すると書庫から見つけてきてくれる。早速二冊の本を注文すると、一冊はすぐに持ってきてくれた。しかし次の一冊を探しに行ったきりなかなか帰ってこない。こういうときはもう一度検索ボタンを押すといいのだけれど、なにがその操作にあたるのか。そもそも何をお願いしたのかも思い出せない。やはりこのシステムはダメだと思いながら、一冊目の「知識に関する秘義の辞典」をぱらぱらめくってみる。

(2005年7月28日)

Interwallマシン

男が本屋の紙袋にかさこそと軽い音のする何かを入れて差し出し、ここはひとつ泣いてもらいたい、と回りくどい言い回しをする。袋をいくらかで買ってほしい様子。中身はどうせ本の付録にありがちな二つ折りの段ボールだろうが、そんなこと言わずにお客さん、これを買ってくれたらもれなく差し上げたいものがある、と言って取り出した掌に収まる円盤型の電子機器はフィリップス製で、表には小さいレンズ、裏には各国語の説明書き。そこには「陣地」やら「撮影」やらの日本語が見える。これはおそらく小さいInterwallマシンなのだろう。いつのまにか技術を出し抜かれて焦る気持を抑えながら、財布から小額紙幣をかき集めて三万円を作るのに苦労する。

(2001年7月8日その2)

青錆色の書物

僕とその女は、それぞれ自転車に乗って長い坂道を降りている。僕たちは、ある使命を帯びているために、こうやって急な坂道を猛スピードで下っているのだ。
坂道の終わりに、土をうずたかく積み上げた本屋がある。ここで扱う本はすべて青錆色の砂鉄で、注意深く掌の中央に集めていかないと、吹き飛ばされてしまう。「知識とはほんの一握りの青い磁性を帯びた砂粒にすぎない」と砂鉄製の本に書いてある。
われわれは何冊かの本を汗ばんだ掌にくっつけたまま、さらに自転車に乗って、広大な公園に到着する。地面から半ばあらわになった半径数十メートルの赤い陶板をコースにして、彼女の自転車は巡回軌道に入った。それが、彼女のみつけた使命なのだ。僕もまた、そのような色つきのコースを発見すべく公園を走り回っているのだが、なかなか見つからない。公園を監視する正装の男が見かねて、僕を青い陶板の在り処に連れていこうと手招きしている。

(1998年6月7日)