rhizome: カプセル

VR古書店主

江古田に向かう坂の途中で、近所のハヤカワさんから首長のガラスカプセルに入ったドリンクをもらう。道端に業界人を集めて、ガラスドリンクのパーティーをしている。少し参加したが、話がかみあわないので引き上げる。いつもの木の椅子に座って坂をいっきに石神井川まで滑り降り、川辺を歩くと古本屋がある。黒い小顔の店主は、本の集め方がおかしい。同じ本が何冊もある。ある年の月刊イラストレーションばかり数竿の本棚を占め、入りきらない分は床から積み上げてある。いちめんの色あせたオレンジ色の背表紙。店内の写真を撮っていいか店主に尋ねると、店主自身がポーズをとり、娘や孫まで呼んできてひとりづつ店番に座らせる。僕はスマホをヘッドマウントディスプレイに嵌めて撮っているので、VRの向こうにリアルな店番がいるのかどうかわからない。

(2016年10月17日)

飛ぶガラス管の部屋

臍から性器に向かう細い道がある。その道が枝分かれする腹部を撫でながら、僕と女は進化樹の撹乱について、腹の上の図をたよりに議論している。
昨日は三角フラスコのような白くて小さいブラウン管が飛んでいた。なぜ無生物が飛翔するのだろう。今日は、カプセル錠剤ほどの小さいものが、部屋の中を飛び回っている。昆虫をつかまえる要領で掌に捉えると、それは乳白色の細長い豆電球で、簡単に割れ散ってしまう。
女は短すぎるスカートから裸の尻をむき出しにして、温泉のある建物に向かって歩いていく。背後から見ている僕には、尻の間から覗く一筋の線と、際どい肌の余白に彫られたfig.という文字が見える。たまたま玄関に居合わせた男が勃起を隠そうとするので、彼女の前の線も見えていることがわかる。ちょっとスカートを下にずらしたほうがいい、と温泉に消えていく彼女の背中に向かって何度も声を投げかけるが、伝わらない。

(2008年11月20日)

悪いマイクロロボット

閉鎖カプセルの中には、ゴキブリのような昆虫や、それを捕食する爬虫類などが入れられていて、「閉じた生態系モデル」にはなっているものの、殺伐としていて中を覗き込む気持にならない。会ったばかりなのに恋人のように人なつこい女が、僕がすでに恋人がいることを、会ったばかりなのに責めたて、その理不尽さと手元のカプセルにいらつきながら、このおぞましいカプセルを階段の下や下駄箱の上など、なるべく誰も気づかないところに隠さねばと思っているのだが、なかなか決断できない。
ふと自分の親指の付け根に、白くぽつぽつと芥子粒のようなできものが密集しているのを発見して寒気がする。ルーペで拡大すると、それぞれがメタルキャンのトランジスタ素子のように足を出し、それを皮膚に食い込ませている。この巧妙なマイクロロボットをひとつひとつピンセットで取り出したいのだが、しかし下手にいじると無数のロボットが拡散して体中に回ってしまうかもしれない。ここで焦ってはいけない、と自分に言い聞かせる。

(2003年1月16日)