rhizome: 椅子

VR古書店主

江古田に向かう坂の途中で、近所のハヤカワさんから首長のガラスカプセルに入ったドリンクをもらう。道端に業界人を集めて、ガラスドリンクのパーティーをしている。少し参加したが、話がかみあわないので引き上げる。いつもの木の椅子に座って坂をいっきに石神井川まで滑り降り、川辺を歩くと古本屋がある。黒い小顔の店主は、本の集め方がおかしい。同じ本が何冊もある。ある年の月刊イラストレーションばかり数竿の本棚を占め、入りきらない分は床から積み上げてある。いちめんの色あせたオレンジ色の背表紙。店内の写真を撮っていいか店主に尋ねると、店主自身がポーズをとり、娘や孫まで呼んできてひとりづつ店番に座らせる。僕はスマホをヘッドマウントディスプレイに嵌めて撮っているので、VRの向こうにリアルな店番がいるのかどうかわからない。

(2016年10月17日)

飴色の水

「飴色の水」という歌がBGMで流れる場所で、飴色のニスで塗られたキューブ型の椅子をルールに則り組み合わせ、空中高くヒトの巣を積み上げるゲームで、僕は水越伸さんと佐倉統さんを抑え堂々の一位に輝く。

(2012年10月21日)

ガムラン小宇宙

体育館のイベント会場には、さまざまな展示用の楽器が準備されつつある。とりわけ珍しい楽器を特別に体験させてもらうことになり、不安定な羊毛の高椅子を股にはさんで高いテーブルの天板を覗きこむと、米粒ほどの金属で作られた発音体がガムランのように並び、レンズで覗き込みながら針で音を出す楽器であることを理解する。女性の演奏者から、まず楽器の表に今日の言葉を書き入れてから演奏するように指示される。それは意味があるのか聞こうと思ったが、おそらく聞くことに意味がない。

(2008年10月3日その1)

湯治場の風習

温泉まで歩く行列について行くことになった。道端に列をなして並んだ椅子に、老いた湯治客が、おそらく背もたれのあたりから沸き出るスチームを浴びるため、肩をほぐす独特のしぐさをしながら座っている。そのしぐさを挨拶と間違えたのだろう、われわれの行列はいつのまにか道端の湯治客に、いちいち会釈しながら歩いている。よせばいいのに、と思いながら、なぜか自分もその人たちに軽く会釈している。

(2005年10月11日)