rhizome: 実体がない

VR古書店主

江古田に向かう坂の途中で、近所のハヤカワさんから首長のガラスカプセルに入ったドリンクをもらう。道端に業界人を集めて、ガラスドリンクのパーティーをしている。少し参加したが、話がかみあわないので引き上げる。いつもの木の椅子に座って坂をいっきに石神井川まで滑り降り、川辺を歩くと古本屋がある。黒い小顔の店主は、本の集め方がおかしい。同じ本が何冊もある。ある年の月刊イラストレーションばかり数竿の本棚を占め、入りきらない分は床から積み上げてある。いちめんの色あせたオレンジ色の背表紙。店内の写真を撮っていいか店主に尋ねると、店主自身がポーズをとり、娘や孫まで呼んできてひとりづつ店番に座らせる。僕はスマホをヘッドマウントディスプレイに嵌めて撮っているので、VRの向こうにリアルな店番がいるのかどうかわからない。

(2016年10月17日)

屑鉄回収AR

成城学園の大戸屋を探して、森の中で二人の女子大生に尋ねるが、彼女たちの言う通り歩いてもたどりつけない。駅前の路地に見つけた廃屋を画角いっぱい撮影しようと後ずさりすると、屑鉄回収業者の敷地に入ってしまう。地面に敷いた鉄板が油で滑る。業者のおじさんに写真を撮ってもよいかたずねると「いくらでも撮りな、写らないから」と言う。カメラの液晶を覗くと、確かにおじさんの姿がない。「そのかわり」と言っておじさんが指を鳴らすと、ファインダーの中のあちこちに化け物が現われるが、被写体のほうに実体はなにもない。

(2015年10月15日)

実体のない猫

真理子さんが猫を入れてきたといって差し出す布袋を逆さにすると、猫の粉がテーブルの上にふわりと広がったが、猫の実体はない。粉の中には三色の綿毛や柔らかい肉球なども混じっている。

(2015年8月10日その1)

初音孫

アスキーの福岡さんと、ガラスのプリズムを使った新しいプログラム言語について話している。ヒレ肉をY字に切って三等分する問題を、どう解決するのかなどなど。問題が行き詰ったところでふと、実は自分に孫ができたのだけれど、初音ミクのように物理的な実体のないただの歌なんだ、と話題を変えた。

(2013年7月3日)