rhizome: 猫

保護色の猫

スイッチを押すと何もない地面から正四角柱の玄関が生えてくる。柱の中からスイッチを押すと、柱とともに地面に入り、切り出し場を利用した明るい地下空間に到達する。開催中のバザールは買いたいものはないけれど撮りたいものだらけ。肩車に乗ったモナコ王室の子供も写真に収まってくれる。保護色の猫が狭い土のトンネルを行き来している。保護色といっても、ペン画調の猫の毛並みに合わせて変化するのは背景の土のほうだ。

(2018年2月7日)

実体のない猫

真理子さんが猫を入れてきたといって差し出す布袋を逆さにすると、猫の粉がテーブルの上にふわりと広がったが、猫の実体はない。粉の中には三色の綿毛や柔らかい肉球なども混じっている。

(2015年8月10日その1)

シュレーディンガーの猫

8階の部屋でインタビューを受けている。カメラは向かいの建物に三脚を立て、望遠でこの部屋を狙っている。僕は、窓際に立つインタビュアーのイタオに「人間は視覚的に未来を見るが、猫は未来を見るために手を動かす」と話している。
8階に猫はいない。真上の9階には猫がいる。それを一発で撮るためにカメラを外に設置したのだ、とイタオが言う。
僕は8階にあるロボットの下半身を、どうにかしないといけない。9階に上半身があることを、僕はカメラの映像を見て初めて知った。下半身が動き出す前になんとか始末をつけないと、このロボットは自分の手を探し出してしまう。

(2014年1月17日)

古書店の笑う猫

古書店店主の屋敷は板張りの廊下が迷路のようで、それが宗教団体としての威厳と財力を誇示している。僕は、古書店店頭の廉価本を十万円ほど買いあさり、その支払いのためにやってきた。これは果たして上手な買い物だったのだろうか、いくぶん悔いる気持も頭をもたげながら、なかなか店主のいる場所に行き着けない。黒光りする廊下の奥で、赤く充血した眼をかきむしりながら人間のように笑う猫が、こちらを見ている。

(2008年5月17日)

火口でバレーボール

山腹の草原には、死んだ猫のまだ生暖かい血が溜まっている。そのすぐ近くで、僕は十人ほどの男女と円陣を組んでバレーボールをしている。和気あいあいと見えるのは表面上のことで、彼らは僕を拘束に来た連中だということを、僕はとっくに知っている。ふと眼下を見下ろすと、ここは巨大な死火山の山頂で、遠くカルデラ式の火口内面が緑色に霞んで見える。この状況にふさわしいBGMが流れてきて、こみ上げてくる号泣を喉元で砕きながら、こういう感傷的な音楽は好みではないし、そもそもこの配役は自分に似合わないと思う。

(2000年10月6日)