個人識別図形 (Individual identification form)
22世紀の恋愛がどのようなものであったのか。
それを知る鍵が、北岡健吾著『22世紀の国家戦略』の中にあった。
文章
「恋愛政策
22世紀は恋愛においても政府が介入する特異な期間であった。20世紀末に端を発する人口減少は2090年頃にピークを迎えるのだが、その問題を解決するために恋愛にまで国が立ち入らざるを得なかったのである。政府はまず、育児に関する税金の免除や生活費補助などといった金銭面での優遇に関する政策を打ち立てたが、大きな効果は得られなかった。危機感を覚えた政府は徐々に介入の度合いを強め、最終的に行き着いたのが国家規模でのマッチングであった。
個人識別図形 (Individual identification form)
人口増加を促すには結婚後の対策だけでは足りないと判断した政府は、その前段階である恋愛を促すための対策に打って出た。その中核を担ったのが「個人識別図形 (Individual identification form)」である。これは、18歳を迎える全ての人が登録することを義務付けられた、個人を示す図形であり、遺伝子情報、環境因子、性格診断による情報、学力調査などの多様な情報に基づいて、厳密に規定される。その形はまさしく個人の象徴であり、形が近しい相手とは様々な面で相性が良いと公表されていた。(なお、完全に形が一致することは稀であるがないわけではなかったらしく、そういった相手は、いわゆる運命の相手とされた。)
図形の作成に基づいた情報と個人識別図形の形態的特徴との相関関係は公表されておらず、形による有利不利、良い悪いといった情報も不明であったが、巷では形の特徴から性格を分析したり、形の意味を解明しようとする動きが流行した。また、個人識別図形をキーホルダー状にしたものを身につけることが推奨され、あらゆる公共空間が社交の場と・・・」
この書物によると、個人にわざわざ図形を割り振って、それを恋愛の補助として用いていたようだ。
今となっては、なぜそこまでして恋愛のような不確実な形式を推奨していたのかを知る術はない。
さらなる資料の発見を期待したい。