rhizome: 部室

打楽器の撥

校庭のトラックをぼんやり白線沿いに歩いているうちに、頭に綿毛のついた打楽器のバチを拾った。いつのまにか校庭でやられていた大会は終わり、撤収が始まっている。どこかにマリンバやティンパニのある部屋があった。そこにバチを返さなくては。しかし軒を並べた部屋はどこも体育会系で、音楽部が見当たらない。NHKの取材班が、大会の時間を午後と勘違いして今頃やって来る。大会はとっくに終わったと告げると、内輪もめが始まる。

(2014年10月11日その1)

イクラのありか

コンクリートの地下にある埃っぽい部室で、秘密結社めいたサークルの連中がそれぞれの行為に没頭している。天井から吊った針金でスルスルと自在に上がり下がりを繰り返す男が、そろそろ健康診断が始まると言っている。半田ごてを握った男は、どんな大出力でも壊れないスピーカーに、百ボルトの電灯線を直につないで「なかなか頑丈だね」と感心する。僕は男子生徒女子生徒が混じるトイレで、検査の尿を採取するように言われる。こんな健康診断は、どうせ予算消化のためにやっているに違いない、役人の考えることといったら、と憤りながら、ふと自分がイクラを孕んでいることを思い出した。毛細管に危うくつなぎとめられたひと房のイクラを、ペニスの先の包皮で包んで、壊れないように注意深く抱え込んでいるのだった。こんなところにイクラを隠しているのがばれたら弁解が面倒だし、第一恥ずかしい。誰にも知られないことを願いながら、拭い取ったティッシュごと赤橙色の塊をごみ箱に投げ入れた。

(2002年4月4日)

万能スノーボート

新種のスポーツだ。スノーボートのようだが、湿地、田んぼ、草っぱをぐんぐん滑っていける。簡単で気持ちがいい。本当はもっと別な、もっと難しいことをするつもりでここに来たのだけれど、日も沈みかけているし、ちょうどこの程度が楽しくていい。そう思っていると、小島陽子さんが、
「私が今日買うとしたら、これかしら」と、もう買う気でいる。それじゃ、プロの**さんに紹介しよう。
部室のような狭いところで、名前を思い出せない彼は、草の上を走るのは邪道だというようなことをさかんに言いはじめる。
「それは、本格的なものはこの程度じゃない、という意味ですか?」
「そうだ」とプロ。
小島さんが、買うか買うまいか、悩みはじめてしまった。

(1996年7月13日)