飲み屋の隣に座っている黒服の男が、店の裏手に放置されたアナログレコードプレーヤーから抜いてきたバッテリー(ほかにもっとレアな部品があったろうに…)をポケットにねじ込む。彼は掌に乗るほどの小さい家の模型にストローをあて、らせん状にほどける外壁をするする吸い込んでいく。家はみるみる低くなる。ふたたびストローから紐が射出されると、前とは違う家が出来上がっていく。
再射出3Dプリンタ
(2017年12月19日)
飲み屋の隣に座っている黒服の男が、店の裏手に放置されたアナログレコードプレーヤーから抜いてきたバッテリー(ほかにもっとレアな部品があったろうに…)をポケットにねじ込む。彼は掌に乗るほどの小さい家の模型にストローをあて、らせん状にほどける外壁をするする吸い込んでいく。家はみるみる低くなる。ふたたびストローから紐が射出されると、前とは違う家が出来上がっていく。
ブリューゲルのバベルの塔は中が吹き抜けになっていて、それぞれの区画から内側にせり出したデッキは、オープンカフェなどになっている。デッキからデッキへと螺旋を下って地上階まで来ると、父がいないことに気付く。川の中州を探しまわっても見当たらない。塔の地下にある大浴場で溺れている可能性もある。しかし水中の死体を見るのが恐ろしくて、足がそちらに向かない。
桜井さんの御嬢さんが二階の部屋にはじめてやってきたとき、僕の布団にはたくさんのネジがばら撒かれていた。あわててネジをまとめて容器に片づけてしまい、時間をかけた分類作業をいっきに無にしてしまう。機械油に汚れた皺だらけのシーツの恥ずかしさに動揺しつつ、ふと目に入ったこの人のうなじは見事な巻き毛だった。
連句の持ち番がまわってきたので、一本の棒に蛇がからまっている図を描いた。螺旋を立体的に描くためには、前後の重なりを計画的に描かないとうまくいかない。技巧を凝らしたその句を次の西田裕一さんに渡すと、ここはやはり画像ではなくプレーンテキストでもらいたいのです、と言う。アンドロイドに入った電子辞書を繰りながら句を捻るが、絡み合う螺旋状の言葉がどうしても見つからない。
険しい崖から削り出された山道を、佐々木俊尚さんと歩いている。神田川沿いを歩きはじめたのに、真下の断崖は深くえぐれてそこはもう北朝鮮だ。ブリューゲルのバベルの塔の構造を模しているので、こういう立体空間では平面上の国境は意味ないね、などと話しながら歩いている。しかも、ねじ山をひとつ間違えると簡単に北朝鮮に紛れ込み、いつのまにか夏の学生服を着て国家に服従する自分に幸福を感じる。問題は国家でも思想でもなく自分自身とねじの関係なんだ、と潜めたはずの声が、意外なほど長く洞窟に響いて消えない。