rhizome: 北朝鮮

北朝鮮の列車

列車に乗って北朝鮮を旅しているのだが、中国語で話しかけてくる男や、日本語は通じないと油断して会話している日本人などばかりで、ようやく見つけた地元の女の子にカメラを向けると、アナログのダイアルのついたカメラを、彼女もまた僕のペンタックスに向け、写真機で写真機を撮り合うことになる。北朝鮮の列車は、末端まで歩くと列車の床とホームがシームレスにつながっていて、しかもホームと駅の外も継ぎ目がない。意識せずに歩いていると危うく列車から離れ、道に出てしまう。再入場を咎める駅員に切符を見せて説明するが、言葉が通じない。

(2012年7月4日)

ネジ山の北朝鮮

険しい崖から削り出された山道を、佐々木俊尚さんと歩いている。神田川沿いを歩きはじめたのに、真下の断崖は深くえぐれてそこはもう北朝鮮だ。ブリューゲルのバベルの塔の構造を模しているので、こういう立体空間では平面上の国境は意味ないね、などと話しながら歩いている。しかも、ねじ山をひとつ間違えると簡単に北朝鮮に紛れ込み、いつのまにか夏の学生服を着て国家に服従する自分に幸福を感じる。問題は国家でも思想でもなく自分自身とねじの関係なんだ、と潜めたはずの声が、意外なほど長く洞窟に響いて消えない。

(2004年8月15日)