rhizome: 国家

二つの太陽

子供は部屋で古いデジカメをおもちゃにして遊んでいる。太陽が二つあり、まだ沈んでいない片方は宗教団体が作った人工の太陽で、電球色の表面に動画が仕組まれている。女は30日のパーティーのために、古い高層建築の最上階にある魚屋で買い物をしている。30日に来る男のために女が昂っているのを僕は知っていて、変わった生魚の切り身を前にしながら嫉妬で機嫌が悪い。子供がおもちゃのピストルで遊んでいる隣の部屋で、僕は女と二度目のセックスをしようとしているが、女の股間は○と×の記号が縦に並んでいるだけで、○をいくら舐めても彼女に次の発情がやってこない。多夫多妻を推奨する宗教のせいで、みんな気持ちが変わってしまった。ひとりの女にこだわる時代遅れの感情をどうにかしないと、いろいろなことがうまくいかない。いつのまにか帰宅した父が女と関係していることを僕は容認していて、しかし意外に若い父の勃起を目の当たりにすると、許せない気持が沸き起こる。女は次々と過去の恋人を自分の動画に重ねては取り替えている。相手が誰に定まるわけでもないのに、彼らが僕を話題にしながら裸体を重ねることを想像していたたまれなくなり、二つ太陽のある夕暮を散歩しようと自分の靴を探しはじめる。

(2007年2月20日)

ネジ山の北朝鮮

険しい崖から削り出された山道を、佐々木俊尚さんと歩いている。神田川沿いを歩きはじめたのに、真下の断崖は深くえぐれてそこはもう北朝鮮だ。ブリューゲルのバベルの塔の構造を模しているので、こういう立体空間では平面上の国境は意味ないね、などと話しながら歩いている。しかも、ねじ山をひとつ間違えると簡単に北朝鮮に紛れ込み、いつのまにか夏の学生服を着て国家に服従する自分に幸福を感じる。問題は国家でも思想でもなく自分自身とねじの関係なんだ、と潜めたはずの声が、意外なほど長く洞窟に響いて消えない。

(2004年8月15日)