rhizome: 逃走

白滝と巨人

警察署の周囲に張り巡らされた有刺鉄線が、ことごとく糸こんにゃくと化し、余った針金は「しらたき」として束ねて結んである。遠く崖線に沿って走る高速道路の上を、捕縛を逃れた巨大な白い人がゆっくり歩いていくのが見える。

(2012年10月16日)

木偶スナイパー

公園の木材チップから作られた表面が滑らかなA4の紙の束を注文すべきだったのに、ざら紙のA5の束二つと間違ってしまった失態を責められているのだろうか。理由がわからないまま付け狙われ、姿を変えてどこまでも追ってくる「ヤツ」から逃げている。一見、関係のないふりをしている通行人の背中から木製の銃口が出てきて、こちらを狙い撃ちする。木偶(でく)の通行人に化けた「ヤツ」に飛び掛ると、簡単に二つにへし折ることができたのだが、ただの材木の束になってしまった「ヤツ」は、今度は突然炎をあげたりして、執拗な攻撃をしかけてくる。図書館の本棚の上面に並べられた、A4やA5の用紙の束を蹴散らしながら、マブチのモーターだ、マブチのモーターさえあれば助かるのに、と思う。

(2003年1月26日)

蛇は仲間だ

すっかり傷んだフローリングの床は、ところどころ体重を支えきれないほど危うくなっていて、うかつにたわんだ場所に足をかけると、すっぽり踏み抜いてしまう。床下には意外に深い空間があり、光が差し、冷ややかな空気が流れている。そこには真新しい床があるのだから、だったら一段降りて移り住んでもいいじゃないかと思う。
冷たい床下の床に、赤と白のまだらの蛇がいる。蛇を殺してはいけない。だから、ゴミ箱をそっとかぶせておくことにした。あとでゴミ箱の下に薄い板を差し入れ、そのまま板ごとずらして外に出せば、蛇に触れることなく蛇を逃がすことができる。
拳銃をもった男たちが雪崩れ込んできて、僕は拘束される。男がゴミ箱を持ち上げると、コブラのように頭をもたげた赤白の蛇が男を威嚇する。男がひるんだすきに拳銃を奪い、まんまと逃走に成功する。
蛇はやはり仲間なのだ。

(2000年9月25日その2)

ボルゴさんの子供

彼の子供には形がない。なまこのようでもあり、ウニの刺し身のようでもあり、ペニスのようでもある。口があって話ができる。時折、ペニスの先の穴のような口で噛みつく。その子供をソファの片隅に乗せて、広大な要塞から救出してきた。
ボスは、その子供を捕らえようとしている。子供は相手の顔にしがみつくと、まるで変形ロボットのような構造を有機的に変形し、相手の身動きを封じ込める。
トランクに隠していた子供が見つかってしまい、組織のボスの手に渡ってしまうが、しかし子供は今度は液体になって、地面に染み込んでいく。父親に「なにかあったら、呼んでください」と言い残す。

子供の父親はボルゴさんという名前で、正義の味方として活躍するボルゴさんの連続ドラマがはじまる。ボルゴさんがやってくると、彼の手には大きな手袋に変形した子供が嵌っていたりする。ボルゴさんは関口ひろしのように笑いながら登場し、今週は入院している悪人の点滴や人工呼吸機にしがみついて、彼らを滅ぼしてしまう話だ。
ボルゴさんの番組を見ていたら、いとこのYがやってきて「宿題はどうした」としつこく尋ねる。

(1996年9月2日)

白熊に錠剤

巨大な白熊に追われている。マンションの中庭を徘徊する様子を、最上階から見ている。僕は、食パンのような、練りゴムのようなものの中に、白い錠剤をたくさん詰め込む。これで安心だ。襲ってきたら、これを投げつければいい。

(1996年7月31日)