「飴色の水」という歌がBGMで流れる場所で、飴色のニスで塗られたキューブ型の椅子をルールに則り組み合わせ、空中高くヒトの巣を積み上げるゲームで、僕は水越伸さんと佐倉統さんを抑え堂々の一位に輝く。
rhizome: キューブ
バイク炎上
アルミ製キューブをボルトで組み合わせたバイクが、自動車とガスを交換している。それは非常に危険な行為だからやめたほうがいい、と実家の二階の窓から乗り出して忠告するのだが、案の定バイクは玄関までふらふらと移動し炎上しはじめる。この番号を押すのは生まれて初めてだと思いながら119番に電話をかけるのだが、電話回線が燃えてしまったのか、音がしない。到着した警察官は、これは日常的な出来事だからと笑顔で帰ってしまう。巨大なクレーンをあやつる業者がバイクの撤去費用を請求してくるので、彼の頬を軽くたたいて「それはまるでこうやって殴られたうえに殴られ代をとられるようなものじゃないか」と言うのだか、この男には複雑すぎる比喩だったかと後悔する。母親はそんなごたごたのなか、黙々と一階の障子を張り替えている。
架空階段
夜の干潟に佐々木が繰り出していることをラジオで知った。彼は、おこぜや小さい蟹などを獲りながら、どうせなら夜が明けるまで獲り続けようと思っている。その思考内容は、薄明の電波に乗って世界に筒抜けになっている。
僕は偶然を装って、どんより鈍色の朝の浜で彼に合流した。毛の生えた小さい蟹と引き換えに野菜をくれるおばさんは、浜には長い時間いるけれど、野菜を採るのに忙しくて蟹まで手がまわらないものだからと、なぜかしきりに弁解する。
砂浜の行く手に竜巻が三本、色違いの尻尾をいまにも地上に届かせようとしている。伏せたボートの中で写真を撮ろうと待ちかまえている連中がいる。無知ほど恐ろしいものはない。僕は竜巻映画を見ているので、巻き込まれたら命がないことをよく知っている。
気まぐれな竜巻の動きを注意深く見定めながら、階段や吊り橋や稜線を伝って登山口にたどり着く。竜巻を逃れて山に登るのは、これが初めてではない。いやそれは、かつて女と付き合いを深めていった過程と比喩的に相似なだけかもしれない。
標高千メートルを越えるあたりで、ある説明を思いつく。仮に一辺が1メートルの立方体の石を、画素のように階段状にずらして並べると、千画素目の石が標高千メートルである、と。すると比喩はそのまま実景になり、標高ゼロメートルからはるか上空千個目の石に、僕は震えながらへばりついている。
巨大トマトの娘
砂でできた巨大なさいころの中腹に洞穴があり、奥に行くほど狭くなる。ホーンスピーカーの奥を覗くようにして、Sとともに入ってきたこの砂のホテルの受付に料金を尋ねると、宿泊するなら夜11時以降にもう一度来るように言われる。奇跡のようにここまで来たのに、ふたたび砂のホテルの外に出て彼女の家まで歩いていくことになる。初めて会う彼女の父親は巨大なトマトを育てていて、ひとつ食べてみないかとすすめられるが、あまり旨そうではないそのトマトを一口かじって、絶対に食べきることのできないサイズのトマトを結局食べ残すならどこで残しても同じだということに気づいて、トマトにしては変にぶよぶよなその大きな物体を放置することにした。さてそろそろまたホテルに向かおうかとすると、弟か子供かわからない男の子が妙に僕になついてしまい、いっしょに門を出たところでじゃあここでばいばいね、と言ったとたんに泣きじゃくり、こんなに家族と仲良しになってしまっては彼女に邪心をいだけないではないかと困惑するのだった。