rhizome: フレームアウト

文京の水路

文京区に張り巡らされた水路を、草原真知子さんとボートで巡っている。お互いの家族の話などをしながら、いつのまにか水路の網目の深いところまで入り込んでしまった。これからボートを駅に返しにいけば、すでに始まっているクラス会に間に合わない。ボートを管理するロボットが、藍染の布を外皮として貼った顔をこちらに向けて、ボートはどこに乗り捨てても良いと言う。ただ、返却時には停泊するボートに真水を満たしてほしいとも言う。真水の水源を探すのは厄介だから、根雪を探してそれを抱きかかえて融かせばいいのよ、と真知子さんが言う。文京区の雪渓を探して水路をさまよううちに、川沿いのマンションの外壁を登る小学生たちに出会う。彼らは壁をいかに速く登りきるか競っていて、黄色や赤や緑の服をぱたぱたとはためかせながら次々とファインダーの上方にフレームアウトしていく。

(2013年6月2日)

ピンクの小猿

修学旅行のバスは、休憩所に着くたびにみな揃って降りるのが面倒だ。このバスはしかも飛行機なのだから、トイレだってちゃんと機内にある。着陸時に目に入った色とりどりの小箱のような町並に心を引かれながら、しかし小箱に分け入って写真に収めてくる時間のゆとりもこの休憩にはないことだから、僕は降りずに機内から窓の外をぼんやり眺めていた。
窓のほぼ真下にある水溜りのような淀んだ小川に、ピンク色の猿の死体がいくつか、うつ伏せで浮いている。大きさは、おそらく掌に乗るほどだろう。ふと元気のよい生きた猿が、ファインダーの外から飛び込んできて、瞬く間にフレームの外へ過ぎ去った。

(1999年2月22日)