rhizome: 常盤台

手綱つきバス

上板橋と常盤台の間に、廃棄物処分場予定地がある。長い間空き地になったままのこの場所をバスが走っている。男が地面にコンクリートを流し込んでいる。彼は計画のはじめからかかわっている都の職員で、何度かここで顔を見たことがある。
ぬかるんだ細長い空き地をゆっくり走りながら、バスは自分自身を小型化していく。ついにデスクトップPCの大きさにまでなると、僕はキャスター付きデスクトップパソコンに犬の手綱をつけ、PCケース上面にまたがる。これでは一人しか乗れないので、同乗していた連れはいつのまにか歩いている。そっちのほうがバスよりずっと速い。
蛇行しながらようやく到着した常盤台のガレージで、待ち構えていた都の職員にバスを引き渡すと、彼らはバス内部に詰まった空中配線に空気を吹き付け、たまった埃を掃き出した。

常盤台の商店街で、芋菓子屋の暖簾をくぐると、ばったり泉に出くわした。ここで偶然出会うのはこれで二度目だ。

(2013年10月31日)

リアルグーグルマップ

常盤台駅のロータリーに、この町の広大なミニチュアがあり、朝焼けの斜めの日差の中、カメラのムビーモードでバーチャル空撮をする。日差しの角度が鋭く明暗を作る時間はわずかなので、焦ってカメラを動かしている。

(2010年8月9日)

ケータイ旅行

FOMAのテレビ電話でパリの徳井naoさんと話していたら、ボタン操作を間違えて、パリへ自分を転送してしまった。突然入り込んでしまったアパートの部屋で、彼は女性と別れ話の最中で、こういうプライベートな空気にずかずか割り込んでしまうのはケータイの悪いところだなどと間抜けな弁解をしているのが情けない。途方に暮れて歩くパリの町並みは、ところどころ「常盤台行」などといった漢字もあり、なにしろケータイで来たために完全に来きっていないのだなと思う。しかし、パスポートなしでどうやって飛行機に乗って日本に帰ればいいのやら、暗澹たる気分のなか、ひらめくように、そうだFOMAで帰ればよいのだと気づく。電話帳の「中村理恵子」に電話すると、画面がカラーになったり白黒になったりしながらなんとかつながり、こんな状態で転送すると死んでしまうのではないかという不安をいだきつつボタンを押すと、中村理恵子と梅村高志さんが無数に穴のあいた植木鉢を逆さまにして香炉を作る相談をしている庭にたどりついた。

(2004年12月2日)

葉脈状の樹

東武東上線の上板橋と常盤台の間に、教会がある。その教会の前に立って線路の方向を見ると、ポプラのように背の高い樹がある。その樹は葉脈の形をしていて、教会の方から見ると樹形だが、横から見ると薄くて樹には見えない。
その樹を見ようと、上板橋から常盤台に向かって歩くのだか、なぜか樹を発見する前に駅についてしまう。何度往復しても、樹が発見できない。ふと右の掌をみると、いままで黒子だと思っていたものが葉脈状に広がっている。ああここにあったのか、と納得する。

(1972年頃)