rhizome: プレゼン

人工的なカツオ

カツオの表皮は、白から黒へ至るさまざまな灰色が層をなしている。この層構造のほころびがカツオ独特の模様を作るのです、と僕はNTTの社内会議で代理プレゼンを行っている。ところがたまたま俎板に乗ったカツオの腹はまるで製図したような台形の模様で、シールのような皮を剥ぎながら、なぜもっと説得力のある自然体のサンプルを選ばなかったのかと後悔する。

(2013年6月20日)

記憶捏造

帰り際に男が硬く手を握りながら、潤った目に「またしよう」という意味をこめている。いや僕には心当たりがない。この男は間違いなく頭が変なのだが、しかし自分の記憶が変である可能性も却下しきれない。
大衆食堂の升席に設置された木の湯船につかり、閉店時間間近で熱い湯が止まってしまうのに、僕はすっかり水でうめてしまい、後ろめたい。このぬるい湯に今から入ろうとしている男がいて、彼はこのあと食堂のホワイトボードを使って捏造される記憶に関するプレゼンをするのだと言う。

(2012年8月31日)

昆虫進化広場

古本屋のある坂を下ると、草もない空き地のそこここに子供たちが集い、カナブンを集めている。昆虫は煙のように舞い上がり、空中交尾のたびにワニぐちのゴキブリなどに進化する。子供たちは昆虫の発する化学物質を記録していて、夕暮の広場でパワポのプレゼンをしては、歓声をあげている。

(2009年12月30日)