実家の二階が光学迷彩の部屋になっているので、部屋の中から四方がすべて見渡せる。たかだか二階なのに地面との間に雲海が棚引いている。部屋の中から、言葉が通じない背の高い黒い人と、ジャンベルを使って意思疎通できるようになる。
地震が起きると水そのものが吸引する性質をもつようになり、地面から湧きだしている水が手に吸いついてくる。水が吸いつくので地震が起きる、という逆の因果関係かもしれない。この仮説はきっと新しい。
(2015年9月12日)
実家の二階が光学迷彩の部屋になっているので、部屋の中から四方がすべて見渡せる。たかだか二階なのに地面との間に雲海が棚引いている。部屋の中から、言葉が通じない背の高い黒い人と、ジャンベルを使って意思疎通できるようになる。
地震が起きると水そのものが吸引する性質をもつようになり、地面から湧きだしている水が手に吸いついてくる。水が吸いつくので地震が起きる、という逆の因果関係かもしれない。この仮説はきっと新しい。
自動改札を詰まらせてしまった子連れの女の傍らに、改札装置の内部に詰まった瓦落多を駅員が次々と取り出しては積んでいくので、見る見るうちに背丈より高い山になってしまう。申し訳なさげなその女と、僕は目を合わせないように隣の改札を通過し、エスカレーターで高架のホームへ向かった。しかしあの百円玉や針金細工や半濁音や冠詞の混じった瓦落多は、写真に撮っておくべきだった。
高田馬場のホームはミルク色に沈殿した霞に浮いていて、毎日の利用者でありながら異様な標高に足がすくむ。ミルク色に沈殿した雲海から突き出す建物の影はそれぞれでたらめに傾斜しているので、垂直に立っていることができない。タイル貼りのベンチの背に手をついて恐る恐る移動していると、改札の女が軽やかに行く手をよぎり、彼女のふくらはぎに躓いてしまう。
飛行機が雲を抜けると、雲海の境界面に沿って銀色のタンクが歯茎に浮く歯の配列規則で点在している。十分な水圧を得るためには、給水タンクをここまで高く上げる必要がある。地上の蛇口からは、液体水素が出てくる。白いポリタンクでそれを受ける場合、冷えすぎたポリタンクはガラスのように脆くなっているので、割れないように十分注意する必要がある。