ショッピングモールで「業務連絡、解釈船が到着しました」という館内放送が流れる。なにかの符牒か、客には意味がわからない。解釈船は座席の背と背の間にも人を詰め込み、田舎駅に着いたとたんにぱっかりと開く船の側面から人がどっと広い改札へなだれ込む。広い改札をトラックまで通ろうとする。いくら田舎でもそれは無理だと駅員が制する悶着を写真に撮ろうとカメラを向けると、トラックの運転手がVサインを送ってくる。改札のあまりの広さに画角が足りず、パノラマ撮影で流し撮りするがうまく写らない。緑生す駅の谷に降り、一面の植物群に向けてパノラマの試し撮りを始めると、この最新カメラは空間を縦横無尽に舐めるだけで風景を勝手に読み取り、重複した空間は襞を寄せて畳み込んでくれることがわかった。
rhizome: 変な運転手
播種装置
いつもきみたちのところで飲んでいるのは申し訳ないからと、杉山先生が鶴川にある自分のマンションに招待してくれると言う。僕はそれを、相模なんとかという駅で聞き、さてどうしようか迷っていると、着替えなどは以前ロッカーに置いたままだから、とRがキオスクの従業員用の扉を開ける。そこには見覚えのある靴やシャツやバッグがかかっている。そういえばここ何年か見なかったのは、ここに置いてあったからか。
相模なんとかという駅は終着駅で、やけに巨大な先頭車両が、線路終端のコの字ホームに入り込んできたところだ。黒人の運転手が声をかけてきて、この機械のわかりやすさを実証するために、いくつかインタビューしたいと申し出る。僕は彼の説明を聞きながら実際に鉄の塊を操作してみるが、回転数の設定はレコードプレーヤーとほぼ同じ目盛に、特殊な速度を上書きしただけなのがバレバレだ。この鉄の塊は、実は種まき装置なのだ、と黒人がこっそり告白する。
漂流バス
久しぶりに会う蒼井さんとの待ち合わせに30分遅れてしまう。すでに来ているMがそれを咎めるが、どうしたってこの時間より早く着くことはできないので、咎められたことに憤慨する。蒼井さんが皮肉っぽく「20年前とまったく変わってない。変わったのは散髪したことぐらい」と言う。僕は、頭にきて帰ってしまうことにする。捨てぜりふに「散髪だけ残しておきたいところだ」と言うが、意味を理解してもらえない。
駅のホームで、Mが追いかけてこないかと人影を探しながら、しかし滑り込んできた電車に乗ってしまう。この電車は都心から離れる下り列車だが、大回りして都内に帰宅するルートを僕は知っている。ところが、あるところでこの車両だけ切り離され、路面を走るバスになった。分岐する車両があることは、なんとなく知っていた。しかし、この方向では家からどんどん遠くなるばかりだ。どこかで降りなくては。同じ間違いをした乗客が、あちこちでそのことを話している。遠くに見える見慣れない山のことや、この方向に知っている会社があることなど。
気がつくと、バスが川の濁流に浮いている。電車でもありバスでもありそして船でもあったことに、みな驚嘆している。しかし、バスは思うように進んでいないようだ。しかも、だんだん横倒しになってきた。不安になって運転手に「大丈夫なんだろうな」と言うと、太ったイタリア人の運転手は胸毛に覆われた上半身をあらわにして笑いながら、「あんた、どうにかしてよ」と言う。