{ねこ(草原真知子)さんが、「いい道をみつけた」と言うので、彼女に案内されるままに、地下へつづく階段にやってくる。地下に続く階段にしては、底の方が妙に明るい。
階段は、表面がまったく見えないくらい、一面うずたかく本が積み上げられていて、それがねこさんの収集した本であることはすぐにわかる。ねこさんは、「これじゃ通れないわね」と言って、積まれた本を押し倒すと、本はどどっと地下のほうに崩れ落ちていく。
その、ほとんど本でできた階段を、這いつくばって降りていくと、そこは北欧のとある集会所。こんな方法で簡単に来られでもしないと、しょっちゅう海外に出るお金もないわよ、とねこさんが言う。
北欧の集会所で、ぼくらは何人かの知り合いと話している。まったく言葉の通じない初老の男が(彼はエルキ・フータモのように、まつげか白くて、瞳の色が薄い)、まったくこちらの目を見ないで話しかけてくる。彼は、ぼくのことをよく知っているらしい。
わかりやすい英語をしゃべる若い男が、本をさしのべてきた。本をあけると、なかに日本語がまじっている。しかし、その日本語らしいものが解読できない。「チンプンカンプン」とぼくはおどけて叫ぶと、その若い男はさも意味が通じたかのように高らかに笑う。意味もわからないくせに…………
同じ階段を昇って帰ろうとすると、本はますます雑然と増殖していて、出口はほとんど頭が通るか通らないかほどになっている。そこを無理矢理通って帰ろうとする。体のどこかを擦りむいて、ひりひりする。
次の瞬間、ぼくはドイツをめざして階段を降りている。それは、果てしない螺旋階段。ぼくは、急がねばならない。もう足をつかって駆け下りる時間もないので、手すりを滑って、しかもお尻ではなく手だけを使って、滑り落ちていく。途中、何人かの男を蹴落としてしまった。
階段の果てには、座敷に膳が用意された薄暗い店がある。そこはまだドイツではない。が、そこで食事をしないと、先に進めない。急ぎながら喉に流し込んだ液体が、信じられないくらい旨い。