自分の恋人に見慣れない股がついている。ここは性器がときどき入れ替わる世界だから、と恋人が言う。恋人のいつになく薄い陰毛を毛づくろいしながら、ここを触ると嫉妬するのか?と尋ねると、これはフリーセックスのKNのものだから大丈夫だよという。この世界で愛を確かめあう言葉を探すのは難しいな、と思いながら恋人の右目を見ると涙がとめどなくあふれて、尋常でない液量なので瞼を広げてみると眼球が若干小さくなっている。
rhizome: 交換
血液交換場
土の露出した断崖に、人ひとりやっと通れる穴があり、くり貫かれた土の中に酒場があり、好きな酒を好きなだけ呑み好きなだけ金を置いていく仕組み。鈴木健が、自分は蚊に刺されても放置するという。好きなだけ血を吸わせて、そのうち自分の血が蚊と交換されて別ものになってもそれはそれでいいというので、いやだめな蚊もいるだろと反論する。
艶やかな両替
優先席に座っている老いた女が、両替をしてくれといって五千円札二枚差し出すので、僕は一万円札を渡そうとする。よく見ると五千円札は見たことのない外国の紙幣で、僕の一万円も表面が黒く焦げていて、これではどちらが悪者かわからないので等価交換にならない、立会人のもとで交換したほうが公平だと言って、駅舎を目指すが、認知症の女は脳細胞とともに年齢を欠落させているせいか、声も話題も20代の女で、艶やかにまとわりついてくる。
貨幣論
草原さんの代役で小学校の教壇に立つと、机の面が自分の背よりも高く、小学生の顔を見るためにいちいち懸垂しなくてはならない。初回の授業なのにゲストで呼んだ物理学者を紹介しなくてはならず、いきなりそれはないだろうということで生徒に「力(ちから)ってなんだろう」と質問を投げかけてみると、小さい丸眼鏡のイルカが「相手の気持を考えないでも物々交換ができる仕組み」だと答える。
バイク炎上
アルミ製キューブをボルトで組み合わせたバイクが、自動車とガスを交換している。それは非常に危険な行為だからやめたほうがいい、と実家の二階の窓から乗り出して忠告するのだが、案の定バイクは玄関までふらふらと移動し炎上しはじめる。この番号を押すのは生まれて初めてだと思いながら119番に電話をかけるのだが、電話回線が燃えてしまったのか、音がしない。到着した警察官は、これは日常的な出来事だからと笑顔で帰ってしまう。巨大なクレーンをあやつる業者がバイクの撤去費用を請求してくるので、彼の頬を軽くたたいて「それはまるでこうやって殴られたうえに殴られ代をとられるようなものじゃないか」と言うのだか、この男には複雑すぎる比喩だったかと後悔する。母親はそんなごたごたのなか、黙々と一階の障子を張り替えている。