rhizome: 火口でボール

火口でバレーボール

山腹の草原には、死んだ猫のまだ生暖かい血が溜まっている。そのすぐ近くで、僕は十人ほどの男女と円陣を組んでバレーボールをしている。和気あいあいと見えるのは表面上のことで、彼らは僕を拘束に来た連中だということを、僕はとっくに知っている。ふと眼下を見下ろすと、ここは巨大な死火山の山頂で、遠くカルデラ式の火口内面が緑色に霞んで見える。この状況にふさわしいBGMが流れてきて、こみ上げてくる号泣を喉元で砕きながら、こういう感傷的な音楽は好みではないし、そもそもこの配役は自分に似合わないと思う。

(2000年10月6日)

火口を臨む家

ウィンクの片方の女の子の実家に、インタビュー番組の取材に来ている。
「こんな変わったところに建っている家があるなんて」
「みんなにそう言われます」
家は山岳地帯の急傾斜の中腹にある。家の出窓に彼女が座り、肩越しに外の景色をカメラでとらえようとしていると、山肌や空がみるみる白いものに包まれていく。山岳地帯特有の濃霧かと思うと、霧の晴れ間のはるか下方に小さい火口があって、そこからもくもくと煙が出ている。赤い炎も見える。
彼女の弟がキャッチボールをせがむので、部屋の窓からボールを投げると、彼はまるで平地のように斜面を走り回っている。
「あんなことをしていて、いつか火口に落ちやしませんか」
「大丈夫なんです」
この人たちは、こういう特別な環境で育って本当によかったなぁと思う。

(1996年8月5日)