下半身裸で動く歩道に乗っている。先に行くSamに続いて、自分も検査が始まる。腰の位置を動かして小さい鏡の枠の中央に性器の像が収まるように調整してください、と言われる。次は女性器の検査だと言われ、とまどいながら背後側を向けると、鏡の中に見たことのない自分の女性器が見える。腰を動かすと位置を合わせこめるので、これは確かに自分のものだ。
rhizome: 検査
鏡像触診
若い女医が、私を触診すればミラーニューロンを介してあなたが治癒するというので、女医の首を抱きかかえて髪を撫でながら自分の痛みに相当する肩のあたりを触ると、確かに自分の痛みが消えていく。床に張り付いている電気工事の男がこちらを見上げている。工事の男は、並んで歩きながら、ずっと彼女を見続けているがなんでああいう治療をしているのか、お金のためなのか、もっと深い意図があるのかよくわからないと言う。工事の男は木造の一軒家に、板塀をすり抜けてすっと消えた。
上板銀座のあちこちが更地になっていて、いよいよ開発が始まるのか、いままで見えなかった奥まった家の側面が露出している。更地の前はここに何が建っていたのか、もう思い出せない。この道を歩き抜ける動画を撮っておけばよかった。いや、今からでも遅くないか。
無言タイプの妹
検査のため病院のベッドに横たわっていると、下半身の衣服をまとめて引きずり下ろされる。先端に太いネジのついたゴムサックを性器に被せ「このまま少しつけていると、沁みだした液体を解読して全部の検査が終わるから」と看護婦さんが言う。
しばらく病院のあちこちを歩きながら、ゴムの先端ネジをカメラの底にねじ込むとぴったり嵌る。思った通り、雲台と同じネジ規格だ。看護婦さんがサックを外しに来る。もったりと他人のような性器が現われ、濡れた薬の匂いを放っている。
一人乗りの小さい車で水路沿いのバラック小屋に帰ると、玄関の前で声をあげて争うふたりの子供がいる。仲裁のために近づくと、子供の姿はなく、水の入った二つのペットボトルの間に赤い蟻が行列を作っている。玄関から覗くと、妹が帰ってきている。お医者さんから検査結果を聞くのを忘れてうっかり帰ってきちゃったよ、とおどけてみせるが、妹は終始無言だ。何か怒っているわけではない。これは声が欠落した種類の妹なのだ。
イクラのありか
コンクリートの地下にある埃っぽい部室で、秘密結社めいたサークルの連中がそれぞれの行為に没頭している。天井から吊った針金でスルスルと自在に上がり下がりを繰り返す男が、そろそろ健康診断が始まると言っている。半田ごてを握った男は、どんな大出力でも壊れないスピーカーに、百ボルトの電灯線を直につないで「なかなか頑丈だね」と感心する。僕は男子生徒女子生徒が混じるトイレで、検査の尿を採取するように言われる。こんな健康診断は、どうせ予算消化のためにやっているに違いない、役人の考えることといったら、と憤りながら、ふと自分がイクラを孕んでいることを思い出した。毛細管に危うくつなぎとめられたひと房のイクラを、ペニスの先の包皮で包んで、壊れないように注意深く抱え込んでいるのだった。こんなところにイクラを隠しているのがばれたら弁解が面倒だし、第一恥ずかしい。誰にも知られないことを願いながら、拭い取ったティッシュごと赤橙色の塊をごみ箱に投げ入れた。