rhizome: 肩凝り

鏡像触診

若い女医が、私を触診すればミラーニューロンを介してあなたが治癒するというので、女医の首を抱きかかえて髪を撫でながら自分の痛みに相当する肩のあたりを触ると、確かに自分の痛みが消えていく。床に張り付いている電気工事の男がこちらを見上げている。工事の男は、並んで歩きながら、ずっと彼女を見続けているがなんでああいう治療をしているのか、お金のためなのか、もっと深い意図があるのかよくわからないと言う。工事の男は木造の一軒家に、板塀をすり抜けてすっと消えた。
上板銀座のあちこちが更地になっていて、いよいよ開発が始まるのか、いままで見えなかった奥まった家の側面が露出している。更地の前はここに何が建っていたのか、もう思い出せない。この道を歩き抜ける動画を撮っておけばよかった。いや、今からでも遅くないか。

(2017年3月3日)

右肩の友人

白い猛禽類がいつも右肩にとまっている。横顔は鷹だが正面はフクロウで、とても大人しい。食卓の小さい花火が火花を散らし始めたので、顔を覗き見ると、彼も恐れずに火を見ている。ときおり彼が飛び立ち、背中に舞い降りてくると、僕の肩凝りも右の肩から右の背中に移動する。

(2012年8月25日)

湯治場の風習

温泉まで歩く行列について行くことになった。道端に列をなして並んだ椅子に、老いた湯治客が、おそらく背もたれのあたりから沸き出るスチームを浴びるため、肩をほぐす独特のしぐさをしながら座っている。そのしぐさを挨拶と間違えたのだろう、われわれの行列はいつのまにか道端の湯治客に、いちいち会釈しながら歩いている。よせばいいのに、と思いながら、なぜか自分もその人たちに軽く会釈している。

(2005年10月11日)