rhizome: 花火

花火とトンボ

七世さんが歯の治療のためにあの世から帰ってきていると、歯医者の草間先生から伝え聞く。実家にやってきた七世さんを、晩御飯を食べていかないか、泊まっていけばいい、と母が引きとめている。神戸の家の地下でやった小さい芝居の話など、積もる話は尽きない。窓越しに垣間見える花火を見て、親戚の男の子と七世さんがはしゃぎながら坂を登って花火大会に駆けていく。先に帰ってきた男の子が、あの人は変だ、花火が上がるとトンボの目をして空に舞いあがろうとする、と言う。

(2016年8月1日)

右肩の友人

白い猛禽類がいつも右肩にとまっている。横顔は鷹だが正面はフクロウで、とても大人しい。食卓の小さい花火が火花を散らし始めたので、顔を覗き見ると、彼も恐れずに火を見ている。ときおり彼が飛び立ち、背中に舞い降りてくると、僕の肩凝りも右の肩から右の背中に移動する。

(2012年8月25日)

操車場の樹林

暗い地下鉄の操車場に、針葉樹が整然と生えている。油と鉄粉で覆われた黒い地面から、はるか先端が見えないほどの木々が聳え、その先端を支えにして地上が乗っている。
nanayoは地上の屋台で買い物をしている。鍛冶屋が手で作った金物は、ひとつひとつ木箱に入っている。nanayoは紙のように薄く延ばした鉄のパレットナイフを選んで買ったそうだ。花火屋からは、茶巾に導火線のついた花火もいくつか買った。これから向かう先が華やぐから、そう言って僕もいくつか花火を買う。

(2008年3月12日)