rhizome: 小学校

五十年目の雲

いままで聞いたことのない轟音が空に満ちている。小学校の坂を登って高畑君の部屋を訪ねると、50年間ずっとこの日を待っていたのだと言う。二人で僕の実家まで戻ると、近所の家は根こそぎなくなっていて、土台がむき出しになっている。かろうじて残った両隣のおかげで、実家は形をとどめている。玄関から入り、骨組みを登って二階にたどり着くと、夕焼け空一面に鱗雲が浮いている。鱗雲の一片がゆっくり降りてくるのを掴まえようとすると、それはあちこち擦れて磨滅した発泡スチロールで、白い粉を落としながら逃げてしまう。

(2015年9月28日)

屋根裏展示場

土曜日の短い授業を終え、小学校の階段を上がっていくと、上の階に行くほど階の面積は狭くなり、最上階は小さい屋根裏部屋になる。藤田という女性が、そこで展示の準備をしている。藤田さんは昔P3で会ったと言うが、まったく覚えがない。和紙の一片に好きな模様を描き人形に貼ってほしい。そうやって多くの人が作くっていく作品なのです、と言う。屋根裏部屋へは階段で来たはずなのに、降りる階段はなく、穴から階下に飛び降りるしかないようだ。紙辺に無数の十の文字を書き、人形のうなじに貼る。

(2015年2月26日)

魂脱落

川べりの学校で、小学生の根岸兄弟が鉄棒をしている。蹴上がりができるか、と聞かれ「できたとしても体中痛くなるからやらないよ」と答えると、根岸弟は小学生の身体でするりと蹴上がり、そのまま前に回る拍子に肛門から魂を落としてしまう。根岸兄がそれを拾い、売店のおばさんになんとかしてもらおうと言って二人で駆けて行った。

川岸の断崖に、緑色の雲母でできた足場が飛び飛びに突き刺さっていて、そのうちのひとつがたわみきれずに折れている。抜けた足場をひとつ飛び越えるときだけ、対岸の学校が一瞬目に入る。

(2015年2月19日)

貨幣論

草原さんの代役で小学校の教壇に立つと、机の面が自分の背よりも高く、小学生の顔を見るためにいちいち懸垂しなくてはならない。初回の授業なのにゲストで呼んだ物理学者を紹介しなくてはならず、いきなりそれはないだろうということで生徒に「力(ちから)ってなんだろう」と質問を投げかけてみると、小さい丸眼鏡のイルカが「相手の気持を考えないでも物々交換ができる仕組み」だと答える。

(2013年9月16日その1)

気遣い小学校

小学校の国語の授業を担当することになり、先生方と打ち合わせを始める。背後の窓際に眼をやると、陽射しの中でSamは胸をはだけたまま居眠りをしている。先生たちは、それをずっと見ていたはずなのに、誰ひとり指摘する者はない。そういう気遣いは誰のためにもならない。寝ぼけたSamを膝に引き寄せて、乳房が股にあたるのを感じる。
隣の部屋に設置された蒸気式の機械に、職人たちは枕の大きさもある餅を無造作に投げ入れる。餅には木屑などが付着しているが、餅は十分に大きいので、表面を削って内部だけを使ってもちゃんと結果は出力される。餡子をたっぷり包み込んだ柏餅をひとつ、頂戴する。

(2008年2月28日)