rhizome: 発泡スチロール

五十年目の雲

いままで聞いたことのない轟音が空に満ちている。小学校の坂を登って高畑君の部屋を訪ねると、50年間ずっとこの日を待っていたのだと言う。二人で僕の実家まで戻ると、近所の家は根こそぎなくなっていて、土台がむき出しになっている。かろうじて残った両隣のおかげで、実家は形をとどめている。玄関から入り、骨組みを登って二階にたどり着くと、夕焼け空一面に鱗雲が浮いている。鱗雲の一片がゆっくり降りてくるのを掴まえようとすると、それはあちこち擦れて磨滅した発泡スチロールで、白い粉を落としながら逃げてしまう。

(2015年9月28日)

乳首の転移

イスラム様式の長い回廊をもつマンションから、発泡スチロール製の生首がいくつも飛び出し、道に転がってはトラックにはねられ、生々しい血液の代わりに白いスチロールの泡が無残に飛び散る。

マンションの二階から引っ越してしまった佐々木の空室には、運び残した荷物がまだいくつか残っている。幼い女の子を迎えに来た若くてけばけばしい母親が、いきなり両方の巨大な胸を剥き出すと、女の子はそれにしゃぶりつき、あまりに激しく乳を吸うので顔が乳房にめりこんで頬と乳房の境界がわからなくなる。女の子が顔を離すと、女の子の顔に乳房が転移し、顔の真中にひとつ大きな乳首がついている。

(2002年1月30日)