rhizome: 写真

とるとるとる

客である僕をまるで身内のように扱ってくれるその店で、乾杯のために出されたビールジョッキには粉状の青海苔が並々と注がれていた。粉体を飲み干すのがこんなにつらいことだとは思いもよらず、しかし特別な乾杯を飲み残すわけにはいかないので、店を出てからずいぶんたつのにまだ自分の内側に乾いた海苔の香りが貼りついている。

潮の香るこの町で、巻き針金を鉄道の操車場に届けるのが僕の仕事だ。作業服の男たちに、差し渡しが身長より大きい針金ロールを届けると、線路端の木の机になかば破棄された、あるいは不器用に展示された動物や人形などの工芸品群を見つける。青錆色に光を反射するこれらを、持って帰っていいものか、いやそれはことによると盗みになっていまうかもしれないから、やはりこれは写真で撮って帰るのが妥当だろうと、デジカメを向けてあれこれ構図を考えていると、背後に順番待ちのおばさんたちが撮影準備をはじめている。彼女らは写真を撮るにつけてもずうずうしく、さっきまで空に広がっていた綺麗な雲がほしいと一人が言うと、でもその雲はあなたがカメラで吸い取ってしまったんじゃないの、ともう一人。特売品を確保するごとく聞こえるこの人たちの言語には、撮る盗る取るの使い分けがない。

(2001年7月8日その1)

ピンクの小猿

修学旅行のバスは、休憩所に着くたびにみな揃って降りるのが面倒だ。このバスはしかも飛行機なのだから、トイレだってちゃんと機内にある。着陸時に目に入った色とりどりの小箱のような町並に心を引かれながら、しかし小箱に分け入って写真に収めてくる時間のゆとりもこの休憩にはないことだから、僕は降りずに機内から窓の外をぼんやり眺めていた。
窓のほぼ真下にある水溜りのような淀んだ小川に、ピンク色の猿の死体がいくつか、うつ伏せで浮いている。大きさは、おそらく掌に乗るほどだろう。ふと元気のよい生きた猿が、ファインダーの外から飛び込んできて、瞬く間にフレームの外へ過ぎ去った。

(1999年2月22日)