rhizome: アパート

デジャヴ・アパルトマン

ダミーの書物を売るために、友人と街角に立っている。本が目的ではなく、本に挟んだコピーを拡散するのが目的だ。しかしいっこうに売れない。若妻と友人と3人で、新しい住まいへ向かおうとする。方向もわからずにいると、軽トラックでやってきた赤ら顔の不動産屋のおやじが、僕が荷台に隠れて乗るなら現地まで乗せてやるという。谷に面する木造アパートは、構造も窓からの眺めもよく知っている。死んだ友人がかつて住んでいたからだ。ひとつ奥の不思議な間取りのメゾネットに、友人と訪れたこともある。若妻は家賃の書かれた壁のプレートを探している。僕は、友人の記憶が本当の記憶か、かつて見た夢の記憶なのか、夢にさえ根拠のないデジャヴなのか、それがだんだんわからなくなる。

(2018年6月19日)

動物ボード

これが例のやつ、と季里ちゃんが見せてくれたのは、動物を形どった木の板で、それを尻にしいてスケートボードのように仰向けになると、ゆるゆると走り出した。曲がりたい方向に体を傾けるとそちらに曲がる。速度を思いのままにコントロールする力の入れ方もつかんだ。古いアパートの回り廊下で、床板の木目を軋ませながら試し乗りをしていると、季里ちゃんと布山君がラーメンを食べに行くと言うので、僕はこの新しい乗り物に乗ってついていくことにする。こんな遅い時間に食うわけにはいかないと、僕はいちはやく店を出て板を乗り回すが、鶴川の山の上にあるひと気のない繁華街から、さてどの坂道を下れば帰れるのか、見当がつかない。

(2008年5月13日)

ケータイ旅行

FOMAのテレビ電話でパリの徳井naoさんと話していたら、ボタン操作を間違えて、パリへ自分を転送してしまった。突然入り込んでしまったアパートの部屋で、彼は女性と別れ話の最中で、こういうプライベートな空気にずかずか割り込んでしまうのはケータイの悪いところだなどと間抜けな弁解をしているのが情けない。途方に暮れて歩くパリの町並みは、ところどころ「常盤台行」などといった漢字もあり、なにしろケータイで来たために完全に来きっていないのだなと思う。しかし、パスポートなしでどうやって飛行機に乗って日本に帰ればいいのやら、暗澹たる気分のなか、ひらめくように、そうだFOMAで帰ればよいのだと気づく。電話帳の「中村理恵子」に電話すると、画面がカラーになったり白黒になったりしながらなんとかつながり、こんな状態で転送すると死んでしまうのではないかという不安をいだきつつボタンを押すと、中村理恵子と梅村高志さんが無数に穴のあいた植木鉢を逆さまにして香炉を作る相談をしている庭にたどりついた。

(2004年12月2日)