rhizome: 靴を脱ぐ

宿泊体育館

山田興生さんが吉祥寺にある廃れた体育館を改装して、宿泊施設を作った。五十センチほどの正方形の出入口がひとつあいているだけで、中はなにもない。中に入った人は無意識を共有し、みなが見ている夢の一部を自分も見るので、とくに何も用意しなくても大抵のことはなんとかなる。いいアイデアでしょう、と山田さんが言う。山田あっこさんが、体育館の裏手で粘土の餃子を作っている。入口の大きな靴ぬぎ石にサンダルを脱ぎ、これで三度目になるなと思いながら穴に入ろうとするが、奥行きは今までより長く感じられ、なかなか室内に抜け出せない。

(2015年4月16日)

火山岩に埋もれた古本屋

坂道のたもとで、美大生がガラス板に山火事の絵を写生している。しかし山火事はどこにも見当たらない。見渡す限り青いガラス質の火山岩が、ただごろごろところがっているだけだ。
坂道を登りつめたところに、古本屋がある。人がやっとくぐり抜けるほどの木枠の出入り口が五つあり、そのうちのひとつに靴を脱ぎ、中に入った。黒く燻された古民家の本棚を一通り漁り、そろそろ出ようとするが靴がない。ここは入った口とは違う敷居だ。靴を脱いだ出入口がどこにあるのか、迷路のような内側からは見当もつかない。ガラス窓の外を見ると、美大生の描いた山火事がどんどん迫っている。

(2008年11月27日)

穿孔紙ベルト

靴を脱いだまま、バスを降りてしまった。しかたなく、川越街道沿いのAPOCに入り靴を探す。女のデザイナーが、穿孔したプリント用紙を接着剤で固めたベルトがある、千円だ、と言うので買うことにする。その場で接着作業が始まり、面白いドローイングなどがどんどんたたまれていくのが惜しい。そうだ、早く帰らないと飛行機に間にあわない、と気づくが、ベルトはアクリル系接着剤が乾かないまま寝かされていて、しかもひょっとすると自分には長さが足りないような気がする。

(2005年7月29日)