rhizome: 粘土

宿泊体育館

山田興生さんが吉祥寺にある廃れた体育館を改装して、宿泊施設を作った。五十センチほどの正方形の出入口がひとつあいているだけで、中はなにもない。中に入った人は無意識を共有し、みなが見ている夢の一部を自分も見るので、とくに何も用意しなくても大抵のことはなんとかなる。いいアイデアでしょう、と山田さんが言う。山田あっこさんが、体育館の裏手で粘土の餃子を作っている。入口の大きな靴ぬぎ石にサンダルを脱ぎ、これで三度目になるなと思いながら穴に入ろうとするが、奥行きは今までより長く感じられ、なかなか室内に抜け出せない。

(2015年4月16日)

粘土戦争

中華料理屋の二階に、粘土頭の侵略者たちが刻々と迫っている。僕は藍色の子供を抱いて、滑り台の浅い溝に身を隠している。仲間たちは京劇の楽器を鳴らして粘土頭たちを威嚇しはじめたが、しかしいずれは捕えられ、頭を粘土に挿げ替えられることを覚悟しはじめている。僕はその子供を連れて押入れの奥に逃げ込むが、粘土頭の王(わん)さんに見つかり、私はあなたがたをかくまうから声を出さないでそこにいるように、私はみんなからお父さんとよばれているから、と言われる。
数年の後、久しぶりに藍色の子供が声を出すと、遠くから「その声は民枝か」という夏ばっぱの声が返ってくる。中華料理屋のテラスでは、粘土頭と講和を結んだ首相を仲間たちが囲み、不平等条約を糾弾する声をあげる者もいる。

(2013年9月26日)

第二東京タワー

ここのところ、外の景色などとんと見ていなかったとはいえ、ベランダに出てみるとほとんど目の前に迫る「第二東京タワー」が完成しつつあるのには驚いた。タワーのことは噂には聞いていたが、それにしてもこれは近すぎる。まるでゴジラがそこにいるような、恐怖を覚える。抗議に行かねばなるまい。
そして、抗議のためのツアーに参加したわけだが、参加者の誰ひとり自分たちの抗議が届くとは思いもよらず弁当を食べつづけているのに腹が立つ。粘土の服を着た男に、ともかく大事なのは都議会議員とアポなしで会うことだと焚き付けて、二人でガード下の議員事務所を訪れる。議員秘書らと会える会えないの揉み合いをしているうちに、途中からなぜか、プログラムのコンポーネントがインストールできるか外せるかという話にすり替えられている。彼らはとことんずるい。

(1997年10月23日)